ここは場末の居酒屋。適当なところで、マスターに次に行くべき店の情報を探る。そのマスターは、前日に近所のスナックで何時間も飲み、いまだにそれが抜けていないということだった。「だから今日は飲んでないんだよ!」って、店主なんだけど普段から飲んでるのね^^; どうやらこの近辺に詳しい様子なので、俺が求める条件にぴったりな店を教えてくれそう。
私が聞いたのは、何十年もやっている、古~いバーかスナック。バーサンがひとりだったり。そういう人は、地域の歴史を長らく詳しく知っていることだろう。だいたいそういう寂れた店は空いているだろうから、ゆっくり話を聞けるというものだ。
するとマスターは、「そんなのにぴったりの店がこの先にあるよ」と教えてくれました。「まだやってるかわからないけれど、表に出て左の曲がって右側だからすぐ!」
しかし、「まだやってるか」って、いつでもつぶれそうだったってこと?いやもしかして、寿命が尽きているかもしれないってか?
それならいまさら急いでもしかたがないが、とりあえずそこへ向かう。ありました。暗がりにぼんやりと入口の明かりが灯っているじゃないか。重い木のドアを引っ張る。中はどんなだろう?誰かに勧められでもしない限り、普通の人なら恐ろしくて絶対に開けられないドアだと思う。リアルお化け屋敷?
まだドアは10㎝ぐらいしか開いていないのに、中からしわがれた「いらっしゃい…」という声が聞こえてきた。予想通り、いや、予想を超えたタイムスリップ感。昭和初期?本来「ママ」とか呼ぶべきヲヴァ~サンは、髪型も昭和初期モードでややほつれており、服は和服。それも普段着としてしっかり疲れている着物だ。明治生まれの我がば~ちゃんが蘇った雰囲気だ。
この店の内部は広い。L字カウンターの横にU字カウンターもあり、ゆっくり座っても30人以上は余裕の大箱。凝った木調の内装で、往年の豪華さが偲ばれる。いまは音楽もなく、薄暗いガランとした中にヲヴァ~サンがひとり。客も俺ひとり。話を聞くと、高度成長期には何人もの若い女性を雇っていたそうです。なんだか最盛期の様子が白黒映画で蘇ってきそう。目の前の女性は、それから今に至るまでの歴史をずっと背負っている。
ため息まじりにその話をしてくれました。「いまは誰もいなくなってひとりだけれど、儲からなくってもいいの。ただ続けられればと思ってやっているのよ」と潤んだ目をこちらに向けて、カウンター越しに俺の手を握る。一瞬ではなく、スリスリしてずっと握っている。ふたりっきりで、こ、これわ・・・。どうしたらいいの、と手を離すことも出来ず。
翌日には夢だったのかと考える。あまりにも現実離れしている場所だった。夢ではないことは、机の上にある、バーの名前が入ったライターが証明しているのであった。
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