
ものはみな
さかだちをせよ
そらはかく
曇りてわれの脳はいためる
この世界
空気の代りに水よみて
人もゆらゆら泡をはくべく (『歌稿』より)
岩手山
そらの反乱反射のなかに
古ぼけて黒くゑぐるもの
ひかりの微塵系列の底に
きたなくしろく澱むもの (『グランド電柱』より)
高原
海だべがど おら おもたれば
やっぱり光る山だぢゃい
ホウ
髪毛 風吹けば
鹿踊りだぢゃい (『グランド電柱』より)
屈折率
七つ森のこっちのひとつが
水の中よりもっと明るく
そしてたいへん巨きいのに
わたしはでこぼこ凍ったみちをふみ
このでこぼこの雪をふみ
向ふの縮れた亜鉛の雲へ
陰気な郵便脚夫のやうに
(またアラツデイン 洋燈とり)
急がなければならないのか (『春と修羅』より)
「七つ森」とは「七つの海」を逆さにしたものだと思う。
このとき山地はなほ海とも見え(〔青ぞらにタンクそばたち〕より)
新たな自然を形成するのに努めねばならぬ…あまりに重苦しい重力の法則からこの銀河系統を解き放て(『詩ノート』より)
賢治の自由な構想には胸が沸き立つ。もうまるで解体し、物質全部を電子に帰しとも詠っている。
そこはちやうど両方の空間が二重になってゐるとこで(『風景とオルゴール』より)
平塚市美術館のチラシを見て改めて賢治の世界観に胸が震えるような感慨を覚えた。
(写真は、平塚市美術館広告チラシより)