田園・・・Countryside、田舎、祖国、わが故郷。
ここには田園を想起させる具体性を持った対象物がない。緑の樹木、凝視してみると、逆さである。樹は上方から伸びている。
前面に描かれた、というか切り抜かれたような樹の形は、確かに順当である。しかし暗澹とした背後の景色には深い闇がある。そして大きく繁った樹木の葉は、背景の濃い暗緑色に反転している。
これらは何を意味しているのだろう。
この作品を横切る帯状の線は何を意味しているのだろう。
疑問だらけの謎のような絵である。
この『田園』は逆さに描かれている。緑の地平に年月を経た大樹が数本(三本)描かれ、遠景は闇に覆われ見えない深淵の景色である。
作品を逆さに見てみると白くくりぬかれた樹木の枝々は、まるで雷のようにも見える。雷鳴轟く激変の示唆かもしれない。要するに、時代の変遷、激動である。
そうして見ると、横の帯状の線は、地層に見えないこともない。幾重にも重ねられた太古からの地層。
『田園』の地底には、幾憶という時間の眠りが隠れている。
田園というよりは、わが祖国である地球の深い眠りを有した地の底、歴史の深淵ではないか。
《豊かであるはずの田園を、葉のない淋しい枯れ枝とも思える虚しい樹木(権力)が、隠ぺいしている》
不思議にそう思えてくる作品を描いたグリットは、反骨の画家である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)