女と男を思わせる図である。
女を想起させる方は立体であり、男の方は平面である。
女の方が男の方よりはるかに大きい。
女に見える方には樹の枝が伸び葉が繁っている。
双方には楽譜が描かれている。
床面はコンクリートのような人工的な仕上げであり、洒落たフェンスで外界と区切られているが、影が切断されているということは、この床面が高い位置にあることを思わせる。
遠景は空白であるが、上方に黄色が認められる。
条件はこれだけである。
そして『無題』 Untitled
これは何を意味しているのだろう。
位置(高さや場所)を想定できない領域、わずかに黄色に染められた怪しい天空から推して、現世ではない。この空漠は、すでにこの世(現実)の光景とは思われない。
一つの劇中劇…豊かな女は、すでに再生の枝葉を伸ばし、描かれた音符はリズミカルで楽しげであるのに対し、薄っぺらな平面で直立する男の楽譜はひどく単調である。
紳士(男)は女の豊満さにひどく萎縮している、凛と虚勢を張っているがその軽薄短小は明白である。
Untitled・・・肩書も称号もない冥府(あるいは精神界)において、女の強さ逞しさは紳士(男)の比ではない。
どことなくユーモラスな空想を誘う皮肉な作品である。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)