『困難な航海』
航海というのはAからBへ航るということである。
雨風嵐・落雷の窓外、猛威、生き死にを賭けた航海。船の傾斜には鬼気迫るものがある。
暗い海に比して、手前の部屋の明るさは不気味でもある。立てかけられた平板な板は開口の仕切り板だったろうか…人為的に刻まれた四角な切り口がそれぞれの板にいくつも見える。
AからBを覗く、B(海上)からは決して見えないAの光景。
Aは来世、Bは現世の想像は容易につく。BからAへの道はない、BからAへは必至の道が用意されている。
現世の荒波を見つめる眼はある、木製のビルボケは肉体を失った死者の魂に違いない。傍らの卓には白い手に抑えられた赤い鳩、鳩は『大家族』に見る鳩かもしれず、こちら(来世)でも大家族を阻止している。卓の足も微妙に脆弱であり、ビルボケの立ち姿も微妙に傾いでいる。吹き込む風はカーテンを巻き上げているにもかかわらず・・・。
困難な航海、来世への航海はたしかに困難であるに違いない。
写真は『マグリット』展・図録より