桂文珍「春秋落語会」:神戸酒心館ホール
江嵜企画代表・Ken
桂文珍「春秋落語会」が神戸酒心館ホール(078-841-1121)で開かれ楽しみにして出かけた。この日は文珍さんの大のファンである鍼灸医のSさんご夫妻も参加され家族共々大いにエンジョイした。
桂文珍さんはCD版で「老婆の休日」という落語を発表された。演題は映画「ローマの休日」にあやかったのであろう。落語の中身は、文珍さん独特のギャグ連発で、恐ろしいくらいリアルである。またリアルなるがゆえに面白い。何回聞いても飽きない。
今回、「酒心館」の安福社長の肝いりで新城夫人が持参したCDに公演のあと楽屋で文珍さんに直々サインをいただく幸運にも恵まれた。
「春秋落語会」は今回で21回目を迎えた。200人で満席になる小じんまりした寄席だと安福さんはおっしゃる。ところが中身が実に濃い。文珍さんご自身が楽しんで演じておられることがびんびん伝わってくる。それがまた余計ファンをしびれさせるのであろう。
この日も爆笑、爆笑の連続だった。あごがはずれそうだったという声が会場の何処からともなく聞こえてきた。先の「老婆の休日」は文珍さんのヒット作品のひとつであるが、文珍さんは時節の動きを実に巧にとりいれる。江戸時代を題材にした古典落語のやり取りが時代を超えて客のふところに飛び込んでくる腕の冴えはさすがである。
先の「老婆の休日」もそうだがこの日もご自身の母親が肴にされた。日本人ひとり一人が正に直面している老人問題をあぶりだされた。聞いていてしんみりする。事故米も世界金融不安の話も当然出た。中国を舞台にした演題では中国餃子が肴になった。
「春秋落語会」は春秋、年二回ある。この日は月亭八天が前座を務め、中に「女道楽」都都逸の内海英華さんを挟んだ。前座ー文珍さんー都都逸ー文珍さん都合2時間を堪能した。
最初の演題は「親孝行」を題材にした『二十四孝』という唐(もろこし)が舞台である。最近の若者は「親孝行」という言葉自体分からない。もちろん「もろこし」が中国だということも知らない。それがまた笑いを誘うから題材に事欠かない。
主人公の名前は「おうしょう(王頌)」。病気の母親に鯉がからだにいいと聞く。池に厚い氷が張っていた。「おうしょう」は池に腹ばいになる。体温で氷が解けて鯉が飛び出す話である。天が感じて鯉が出てきた。
つぎは「もうそう(孟宗)」。親がどうしてもたけのこが食べたいという。竹やぶは
冬で大雪に覆われていた。「もうそう」は嘆き涙が溢れた。涙で雪が解けた。たけのこが出てきた。天が感じてたけのこが出てきた。
三番目は「こうもう」。親が蚊に刺される。蚊帳が欲しい。しかし買う金がない。「こうもう」は自分のからだに酒をかけ蚊を自分に引き寄せて親を一晩ゆっくり休ませたという設定である。
実は落語『二十四孝』では主人公は夢を見ていた。自分のからだに酒を塗って蚊に血を吸わせた。それで親孝行できたと思った。目が覚めた。蚊に全く噛まれていない。おかしいなと言うと、母親は「一晩中お前が蚊にさされないようにわたしが団扇であおいでいたからだよ」と親に言われるところで「落ち」がついた。
文珍さんは15年前に関西大学ではじめ、慶應大学でも教壇に立った。落語家はひとりで喋って一人で聞く。「友達はいないのか」と学生に言われたのできょとんとしたことがあった。
落語家は羽織をどうして途中で脱ぐのか。始めから脱いでおればいいとも言われた。
礼儀上やるのだと説明するが若者はわからない。想像力が働かない。
一門のある弟子が先日先代を襲名した。文珍さんの今の立場はサラリーマンで言えば中間管理職である。アドバイスすると小言を言われていると思うらしい。芸は自分でつかみとるものなのだということさえわからない。落語を目指す人は最近非常に多い。しかし、自分で勉強しない。
爆笑連続の落語会だった。しかし、今の日本の世相を垣間見る思いがして複雑な気持ちになった。
会場の様子をいつものようにスケッチした。(了)