藤原亜美ピアノリサイタル
江嵜企画代表・Ken
「ピアニストの藤原亜美さんを迎えて、4月29日午後1時半から創立記念音楽会が母校、甲陽学院中学校講堂で開かれる。時間許せばいかがですか」と、同窓のSさんから手紙に添えて、入場券をいただき、楽しみにして出かけた。
演奏会会場の様子をいつものようにスケッチした。事務局の先生から演奏会の帰路聞いた話では、あらかじめ用意した900枚以上の入場整理券は全て出払いましたという大盛況だった。
今西昭、甲陽学院校長は「創立記念音楽会は昭和24年(1949)、第2次世界大戦直後、日本全国がいまだ荒廃した状況の中、豊かな感受性を養う目的で情操教育の一環としてはじまった。今回で70回目を迎えます。」と冒頭挨拶を始めた。
今西校長は「戦後70年強が経過したが、今の日本は、弱肉強食の世の中になりました。一流大企業のエリートがデータを改ざんする。高級官僚は文書書き換えを平気で行う時代となりました。」と話を続けた。
「道徳教育を行い成績をつけることも大切かも知れません。しかし、美しい花をめで、絵を鑑賞し、優れた音楽に感動する。一人一人に品格が求められます。理屈はさておき、ピアニスト、藤原亜美様を紹介します。素晴らしい演奏をお聞きください。」との挨拶のあと演奏に入った。
会場入り口で,第54回生、相愛大学教授、黒坂俊昭氏まとめの詳細な解説プログラムが配布された。まずはプログラムに目を通す。
第一部はショパン。ワルツ第2番からノクターン第8番、バラード第3番、子守歌、幻想即興曲、スケルツォ第2番の順に、藤原さんは、一曲弾き終えるごとに立って挨拶、しばし間をおいてピアノに向かう。鍵盤をたたく様子を拝見していると、まるで藤原亜美さんにショパンが乗り移ったような感じになり、迫力があった。
解説によれば、ワルツ第2番では、1835年8月、ワルシャワを後にして5年ぶりに両親と再会する喜びが伝わる。2番目のノクターンは、ショパンの後援者の伯爵夫人に献呈した曲で作者の満ち足りた穏やかな気持ちが印象に残る。3番目のバラードも2番同様穏やかな音調が心地よく響く。
4番目の子守歌は、体調を崩したショパンを自ら慰める旋律。5番目の幻想曲は、パリ社交界の花形にまで上り詰めた満足感が伝わる。6番目のスケルツォは、ポーランド貴族の娘に恋心を抱く高揚感が伝わるとあらかじめ目を通した解説にあった。黙って演奏に聴き入った。
15分の休憩のあと第2部、ドビュッシ―に移った。解説によれば、ショパンは、社会的状況や個人的事情によって影響を受けたが、ドビュッシーは、1オクターブ上がるのに7つの音(間隔)を6つに変革した。さらにドビュッシーは、邦楽などでしばしば取り入れられている1オクターブの中にある5つの音だけで作り上げる様式を西欧に導入した。それがドビュッシー独特の雰囲気や異様な心地よさを感じさせていると解説にあった。
絵でもそうだが解説はあればあったで参考になるが、解説抜きで、見て楽しむことが出来れば、それで十分いいといつも思う。音楽もそれと同じで解説を忘れて、第二部ドビュッシーのベルガマスク組曲から4曲、前奏曲集から5曲を楽しんだ。
休憩15分を挟んで1時間半近い演奏だった。アンコールを催促する拍手。アンコール1曲目「亜麻色の袋の乙女」という曲が終わったが、拍手が止まらない。藤原亜美さんは再びステージに姿をみせた。そしてひとこと「今日はかなり消耗しました」のあと「花火」を演奏した。しばし拍手がやまなかった。
久しぶりに本物のピアノ演奏を堪能することができた。いい機会を作ってくれた同窓のSさんにひたすら感謝である。(了)