咸其腓。凶。居吉。
咸其股。執其随。往吝。
股がむずむずする。これが危険である。ちゃんと占いでも感じに随ってはいけないことがあるのを忠告してくれる。
今日学会で安部公房の「可愛い女」についての発表があった。このミュージカルスがどういうものだったかわすれたが、花☆清輝がテレビで観て激怒し奥様に向かって『テレビを消せ』と怒鳴り散らしたみたいなエピソードを読んだことがある。たぶん花★にしてみたら、それがおそろしく平凡なまでに予言的であったせいである。現世で成功しなければ無だと分かっている人の執念をなめてはならぬ。安部公房にもそういうところがあって、負けに徹しきれない。
アイドルの舞踊なんか、実際は、規律訓練の権化みたいな集団舞踊である。それが、あなたは大丈夫、あなたのまま生きて、と歌っている。そういえば、短所よりも長所を伸ばせ的な言説をきくたびに、「破戒」の銀之助が、「懺悔録」読んで悩んでる丑松に、「考へ過」ぎずに、「自分の性質を伸ばすやうに為たら奈何かね」と言った箇所を思い出す。我々の社会では、長所を伸ばせ的な言説というのはまあそういうことだということを藤村も理解してたと思うのだ。あなた方の長所を伸ばせ、短所と恥部は無視すればよい、と言うのが社会だが、社会を「観」てみれば、その短所と恥部とは、犯罪の証拠に他ならない。したがって、その社会とおなじで、長所なんかは持続スルだけだ、そもそものびたりしないのである。若者たちの勘違いは、自分の背丈が伸びたからというおなじイメージで長所が伸びたりすると思うことだ。
舞台上の少女達だけでなく、思想上のアイドル達も老人達を早く殺すための心理的方便にもなり得る。能年さん30歳、歴史的必然的雰囲気的におれはもう死んでいるはず、だ。
渡辺茂氏の本(『動物に「心」は必要か』)にあった名言として「小さな声で正直に言おう」というのがある。本で言われても困るのだが。渡辺氏もお歳なので、もういろいろとはっきり言おうみたいな本を書いている。
というわけで、と思っても急に名言は出てこないから、さしあたり――老眼鏡は階段降りるときに危険だということを若者どもに忠告しておきたい。