★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

雲の山

2023-12-17 23:47:32 | 日記


 このごろは、日没前になると、きまって大空に、雲がわくのでした。ときどき、雷が鳴って、雨がふりそうに見えながら、夜は、また、一片の雲すらなく、晴れ晴れと晴れ上がるような、日でりがつづきました。
 そんなときは、足ばやに、秋のくるけはいが感じられたのです。勇吉は、毎日、庭のやまゆりの花へきて、その茎にとまる、とんぼのあるのを知っていました。


――小川未明「雲のわくころ」