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夢よりもはかなき世の中を、嘆きわびつつ明かし暮すほどに、四月十余日にもなりぬれば、木の下暗がりもてゆく。築地の上の草あをやかなるも、人はことに目もとどめぬを、あはれとながむるほどに、近き透垣のもとに人のけはひすれば、誰ならむと思ふほどに、さし出でたるを見れば、故宮にさぶらひし小舎人童なりけり。
宮沢喜一元首相の日録が見出されて大歓喜の人は多い。とはいへ、日記をつけているのはむかしからほんとのボスでもなければ、命を賭けて何かを遂行するしかなかった人でもない気がしないでもない。日記がすごく重要な文化の一角を占める我が国とは、権力の周りで「夢よりもはかなき世の中」という嘆きを嘆きもないのにいわなければいけない余白が存在している。心が恋に向いていてもそうなのだ。