そのようすがまったく狐に化かされた者のようでした。何しろ四日の間、着のみ着のままで、湯にもはいらないでいたものですから、顔も着物もまっ黒に汚れてしまっていましたし、社殿の床下からはい出してきたばかりで、頭には蜘蛛の巣までひっかかっていました。
「おや、酒の匂いがしてるよ」と誰かが言いました。
「なるほど、徳兵衛さんは酔っぱらってる。……化かしといて酒を飲ませるたあ、狐も開けてるな」
一同の者は喜び勇んで、徳兵衛を捕まえて胴上げをして、わいしょわいしょと村の方へ運んでいきました。
――豊島與志雄「ひでり狐」