「二十歳の桜」(岡野弘彦、岩波「図書」3月号)より
「二度目の東京大空襲に遭遇して‥土手の上の花ざかりの桜並木が吹きすさぶ熱風に耐えかねて、次々に炎となって燃えあがってゆくのを見ていた。‥立ち木のまま焼けほろびていった桜の花の幽気のようないまわの際の姿は、今もまざまざとわが胸の内に刻みつけられている。‥私のうたう桜の歌はいつも、暗くさびしい。
ほろびゆく炎中(ほなか)の桜見てしより 我の心の修羅しづまらず
焼け焦げて 桜の下にならび臥す 骸のにほふまでを見とげつ
私はいつまでたっても、すがすがと美しい桜の歌は、ついに歌えそうもない‥。」
「二度目の東京大空襲に遭遇して‥土手の上の花ざかりの桜並木が吹きすさぶ熱風に耐えかねて、次々に炎となって燃えあがってゆくのを見ていた。‥立ち木のまま焼けほろびていった桜の花の幽気のようないまわの際の姿は、今もまざまざとわが胸の内に刻みつけられている。‥私のうたう桜の歌はいつも、暗くさびしい。
ほろびゆく炎中(ほなか)の桜見てしより 我の心の修羅しづまらず
焼け焦げて 桜の下にならび臥す 骸のにほふまでを見とげつ
私はいつまでたっても、すがすがと美しい桜の歌は、ついに歌えそうもない‥。」