■『まんがで読破 失われた時を求めて』(イースト・プレス)
マルセル・プルースト/著 企画・漫画: バラエティアートワークス
フランスコミック版『失われた時を求めて 第1巻 コンブレー』(白夜書房)
フランスコミック版『失われた時を求めて 第2巻 花咲く乙女たちのかげに1』(白夜書房)
「全巻の構成」で原作の全7篇のタイトルをメモしたけれども、今作では、同じ7篇でもタイトルは変えてある。
・スワン家の人々
・海辺の乙女たち
・ゲルマント家の人々
・シャルリュス男爵の素顔
・ヴァントゥイユの七重奏曲
・新たなる真実
・失われた時を求めて
フランスコミック版ですら、つっかえつっかえ読んでいた文章が、
すっかりストーリー説明文にまとめられていて、イラストも主要なポイントだけが抜粋され、
よくぞここまで思いきったものだと清清しいほど!
ってことは、フランスコミック版ですら、原作の愛読者にとっては
「あらあら、こんなに魅力的なところまではしょっちゃって・・・
」てことだったんだろうなあ
今回、大まかなストーリーと登場人物が掴めたから、いつの日か原初を寝食忘れて読む機会が私にも訪れるだろうか?
イラストのテイストも随分前回と違って、現代っ子向け。
モノクロということもあって、ついつい前回感じた叙情性が懐かしく思い出されるが、
ここは頭を切り替えて「まんがで読破」のスピードと、主旨についていくしかない。
最初はどうかと構えていたけど、読み終えてみれば、これほどはしょってもなお、
切なく、豊かな感動が押し寄せて、2度、3度読み返したほど。
言ってみれば、内容は社交界というよりゲイの話がほとんどに思えるんだけど、
いまだに偏見があるんだから、当時は神罰でも下るほど忌み嫌われていたのかもしれない。
だからこそ、より麻薬のように虜になる魅力も感じるのだろう。
プルーストが51歳の若さで亡くなるまで、命を削って書き続け、結局、完成を見れなかったことを
完璧主義者の本人はどう考えているだろうか?
▼大まかなあらすじ(すでに割愛されまくりだけど
「スワン家の人々」
療養所(サナトリアム)から帰宅した「私」は、母親からすすめられた紅茶とマドレーヌを口に含んだ瞬間、
コンブレーに住んでいた頃の記憶がほとばしるように思い出される。
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スワン夫人はシャルリュス男爵との浮気が噂されている。
元ココット(高級娼婦)と結婚したことが悪評となっているスワン。
「私」はジルベルトに初恋をするが、はかなく散る。
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「私」は、音楽家ヴァントゥイユの娘が女性と付き合っているところを見て驚く。
「海辺の乙女たち」
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療養のために祖母と海辺のバルベックのホテルに滞在中、ヴィルパリジ侯爵夫人と交流を深め、
侯爵夫人の甥・ローベル・ド・サン=ルー侯爵とも仲良くなる。
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「私」は、シャルリュス男爵も紹介され、その後もたびたび執拗にされて困惑する。
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ローベルの女友だちは解放的で、ローベルの紹介で画家のエルスチール宅を訪れ、アルベルチーヌ・シモネと出会う。
アンドレから「アルベルチーヌは気まぐれだから気をつけて」と忠告される。
アルベルチーヌが帰る前の晩「1人じゃ寂しいから、部屋に来て」と誘われて、
恋人としての誘いと受けとった「私」がキスを迫ると、すごい剣幕で拒絶される。
「ゲルマント家の人々」
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幼い頃から憧れていたゲルマント家の人々と近づきたくて、ロベールに頼むと「ヴィルパリジ侯爵夫人のサロンでなら運良く会えるかも」と誘われる。
やっとゲルマント夫婦と出会えたが、夫人が嫌うシャルリュス男爵とスワン夫人が現れるとすぐに退散してしまう。
大好きだった祖母が亡くなり、失意で寝込んでいた「私」を見舞いにきたのはアルベルチーヌ。
海辺で見た時とは変わってしまった彼女に、もう恋していないと思いながらも関係を結ぶ。
「シャルリュス男爵の素顔」
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ゲルマント大公夫人からの招待状が届いて信じられない「私」。
スワンから病気で余命3ヶ月だと告げられる。
ゲルマント公爵「スワン君! 君はポン=ヌフのように頑丈なんだから、医者のたわ言にまどわされてくよくよしちゃいかんぞ!」
スワン「彼の言う通りだ。生きてる限り希望はあるさ」
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「私」は、従僕のジュピアンとシャルリュス男爵の関係を見てしまう。
「私」は、アルベルチーヌと別れるため、バルベック行きの列車に乗る前、
シャルリュス男爵に会い、ヴァイオリニストのシャルル・モレルを紹介される。
「俺みたいな庶民は、こうでもしなきゃ社交界になんて入っていけない。俺にとって重要なのは地位と名誉だ。
それを得るためならどんな手段だって利用してやる。君も、俺と同じスノッブだろ?」
列車に乗った「私」は、アルベルチーヌが見知らぬ女性と親しげに話しているのを見て、ある疑いを持つ。
「ヴァントゥイユの七重奏曲」
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バルベックでは、ロベールから恋人で女優のラシェルを紹介される。
その後、ヴェルデュラン夫人からの招待状が届く。バルベックでは有名な金持ちのブルジョアだという。
夫人からスワンが亡くなったしらせ、シャルリュス男爵からはロベールの婚約話を聞く。
モレルがあのヴァントゥイユが作曲した「七重奏曲」を演奏し、「私」は心打たれるが、
庭でアルベルチーヌとヴァントゥイユ嬢が抱き合っているのを目撃してしまう。
「私」はアルベルチーヌを愛していないにも関わらず、嫉妬心から束縛しはじめる。
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「眠っている時の君が一番美しいよアルベルチーヌ。
眠っている時の君には嫉妬の苦しみも、一緒にいる時の煩わしさも、何も残ってはいない。
まるで僕のためだけに咲いている一輪の花のようだ。
誰にも手出しはさせない。アルベルチーヌは僕の囚われの女だ」
「芸術作品は、その芸術家たちの心の叫びを表すひとつの道具のようだ。
ならば僕のアルベルチーヌに対する苦悩もまた、僕の芸術作品をつくる上でのひとつの道具にすぎないのだろうか」
アルベルチーヌとケンカして、別れ話をし、手紙を置いてホテルを出ようとしていた「私」は、
逆に、先にホテルを出たアルベルチーヌからの手紙を読んで、プライドを傷つけられる。
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その後、まったく連絡がなく、プライドなんてどうでもいい、手紙を書いて戻ってきてもらおうとしていた矢先、
アルベルチーヌが馬の事故で死んだと電報が届く。
生前書いた手紙には許しを請い、もう一度会いたいと書かれていた。
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「新たなる真実」
廃人のように引きこもる「私」をアンドレが見舞いに来る。
アルベルチーヌがゴモラであること、そして彼女もアルベルチーヌを愛していたことを告げる。
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実家で母から紹介されたフォルシュヴィル嬢とは、ジルベルトのことで、ロベールとの婚約話を聞く。
母がスワンの死後、フォルシュヴィル伯爵と再婚して、伯爵の養女となったという。
だが、ロベールが浮気をしていることで悩んでいる。
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ロベールは志願兵となり、すっかりやつれてしまった。
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「私」は夜の街中で発作が起き、慌てて入った宿屋でシャルリュス男爵がSMプレイをしているところを見てしまう。
(喘息の発作ってパニ障と似てるなぁ
そこは、彼のためにジュピアンが経営している宿屋で、中身は娼館と変わりないという。
しかも、シャルリュス男爵はモレルを溺愛していたが、モレルは男爵を裏切って、ロベールの愛人になった。
そして、ロベールをも裏切ったため、モレルを探すため志願兵となったが、モレルはそれを知って脱走した。
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空襲の中で「私」は思う。
「かつて私がアルベルチーヌに対してそうだったように、彼らもきっとモレルへの愛情を捨てられずにいるのだろう。
人種の違いや、宗教の違いがあるように、彼らの愛する者が同性である以上、
彼らは社会から孤立し、互いに身を寄せ合って生きていくしかなかったのだ。
だが、その時、私はハッキリと目にすることができた。
神がソドムとゴモラの町を焼き尽くすかのごとく、一瞬にしてこの街を炎に包んでゆくその姿を」
モレルが脱走兵として捕まり「俺に対する復讐だろう!?」と抵抗するが、
ロベールからの手紙で「モレルは立派な芸術家だ。逮捕だけは許してほしい」という手紙が届く。
ロベールは名誉ある戦死。上官はロベールに敬意を表して、モレルに前線への出兵を命じる。
「失われた時を求めて」
場面は最初に戻る。ゲルマント大公からマチネーへの招待状が届く。
その道すがら、ジュピアンと、すっかり老いて温和になったシャルリュス男爵と再会して驚く。
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ゲルマント大公邸で、「私」は再び紅茶を飲んでフシギな感覚にとらわれる。
会場に入ると見知らぬ老人ばかりで戸惑うが、皆、かつての社交界の面々だった。
いまやヴェルデュラン夫人こそ、今のゲルマント大公夫人であると聞いて驚く。
ラシェルも老いていたが、かつてのスワン夫人は昔と変わらぬ美しさだった。
モレルは、「私」の存在に気づき、「ヴァントゥイユの七重奏曲」を演奏する。
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「私」は、幻想の中で、幼い頃の自分から“白い本”を渡される。
「今こそ感じたものを書き残せばいいんだよ。その幸福感を、感じたものすべてを!」
演奏が終わっても呆然としている「私」に挨拶しに来たのは、母親そっくりのジルベルト。
そして、ロベールとの間に生まれた娘・サン=ルー嬢を紹介される。
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「彼女は私の青春そのもの! スワン家とゲルマント家が彼女の存在でひとつながりになっている!
サン=ルー嬢は、私の失われた時のすべてを融合している!」
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病床の「私」は最期の時を使って、小説を完成させようとする。
「今やわたしは時空を超えた存在となったのだ!
私の失われた時は、紛れもなく目の前に広がっている。
あの感覚、あの瞬間! 音も味も感触もすべて思い出すことができる!
今まで一度たりとも止まることなく流れてきた時間・・・それは私だけのものではなく、
この世のすべての人々に今も脈々と流れ続けているのだ」
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「こうして私は再び歩みだす。失われた時を求めて」
ソドム:旧約聖書に出てくる罪深き町のこと。その罪とは主に同性愛のことを指している。
ゴモラ:ソドムとともに旧約聖書に出てくる罪深き町のこと。
その他の「まんがで読破」シリーズ
マルセル・プルースト/著 企画・漫画: バラエティアートワークス
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「全巻の構成」で原作の全7篇のタイトルをメモしたけれども、今作では、同じ7篇でもタイトルは変えてある。
・スワン家の人々
・海辺の乙女たち
・ゲルマント家の人々
・シャルリュス男爵の素顔
・ヴァントゥイユの七重奏曲
・新たなる真実
・失われた時を求めて
フランスコミック版ですら、つっかえつっかえ読んでいた文章が、
すっかりストーリー説明文にまとめられていて、イラストも主要なポイントだけが抜粋され、
よくぞここまで思いきったものだと清清しいほど!
ってことは、フランスコミック版ですら、原作の愛読者にとっては
「あらあら、こんなに魅力的なところまではしょっちゃって・・・
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今回、大まかなストーリーと登場人物が掴めたから、いつの日か原初を寝食忘れて読む機会が私にも訪れるだろうか?
イラストのテイストも随分前回と違って、現代っ子向け。
モノクロということもあって、ついつい前回感じた叙情性が懐かしく思い出されるが、
ここは頭を切り替えて「まんがで読破」のスピードと、主旨についていくしかない。
最初はどうかと構えていたけど、読み終えてみれば、これほどはしょってもなお、
切なく、豊かな感動が押し寄せて、2度、3度読み返したほど。
言ってみれば、内容は社交界というよりゲイの話がほとんどに思えるんだけど、
いまだに偏見があるんだから、当時は神罰でも下るほど忌み嫌われていたのかもしれない。
だからこそ、より麻薬のように虜になる魅力も感じるのだろう。
プルーストが51歳の若さで亡くなるまで、命を削って書き続け、結局、完成を見れなかったことを
完璧主義者の本人はどう考えているだろうか?
▼大まかなあらすじ(すでに割愛されまくりだけど
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療養所(サナトリアム)から帰宅した「私」は、母親からすすめられた紅茶とマドレーヌを口に含んだ瞬間、
コンブレーに住んでいた頃の記憶がほとばしるように思い出される。
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スワン夫人はシャルリュス男爵との浮気が噂されている。
元ココット(高級娼婦)と結婚したことが悪評となっているスワン。
「私」はジルベルトに初恋をするが、はかなく散る。
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「私」は、音楽家ヴァントゥイユの娘が女性と付き合っているところを見て驚く。
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療養のために祖母と海辺のバルベックのホテルに滞在中、ヴィルパリジ侯爵夫人と交流を深め、
侯爵夫人の甥・ローベル・ド・サン=ルー侯爵とも仲良くなる。
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ローベルの女友だちは解放的で、ローベルの紹介で画家のエルスチール宅を訪れ、アルベルチーヌ・シモネと出会う。
アンドレから「アルベルチーヌは気まぐれだから気をつけて」と忠告される。
アルベルチーヌが帰る前の晩「1人じゃ寂しいから、部屋に来て」と誘われて、
恋人としての誘いと受けとった「私」がキスを迫ると、すごい剣幕で拒絶される。
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幼い頃から憧れていたゲルマント家の人々と近づきたくて、ロベールに頼むと「ヴィルパリジ侯爵夫人のサロンでなら運良く会えるかも」と誘われる。
やっとゲルマント夫婦と出会えたが、夫人が嫌うシャルリュス男爵とスワン夫人が現れるとすぐに退散してしまう。
大好きだった祖母が亡くなり、失意で寝込んでいた「私」を見舞いにきたのはアルベルチーヌ。
海辺で見た時とは変わってしまった彼女に、もう恋していないと思いながらも関係を結ぶ。
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ゲルマント大公夫人からの招待状が届いて信じられない「私」。
スワンから病気で余命3ヶ月だと告げられる。
ゲルマント公爵「スワン君! 君はポン=ヌフのように頑丈なんだから、医者のたわ言にまどわされてくよくよしちゃいかんぞ!」
スワン「彼の言う通りだ。生きてる限り希望はあるさ」
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「私」は、従僕のジュピアンとシャルリュス男爵の関係を見てしまう。
「私」は、アルベルチーヌと別れるため、バルベック行きの列車に乗る前、
シャルリュス男爵に会い、ヴァイオリニストのシャルル・モレルを紹介される。
「俺みたいな庶民は、こうでもしなきゃ社交界になんて入っていけない。俺にとって重要なのは地位と名誉だ。
それを得るためならどんな手段だって利用してやる。君も、俺と同じスノッブだろ?」
列車に乗った「私」は、アルベルチーヌが見知らぬ女性と親しげに話しているのを見て、ある疑いを持つ。
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バルベックでは、ロベールから恋人で女優のラシェルを紹介される。
その後、ヴェルデュラン夫人からの招待状が届く。バルベックでは有名な金持ちのブルジョアだという。
夫人からスワンが亡くなったしらせ、シャルリュス男爵からはロベールの婚約話を聞く。
モレルがあのヴァントゥイユが作曲した「七重奏曲」を演奏し、「私」は心打たれるが、
庭でアルベルチーヌとヴァントゥイユ嬢が抱き合っているのを目撃してしまう。
「私」はアルベルチーヌを愛していないにも関わらず、嫉妬心から束縛しはじめる。
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「眠っている時の君が一番美しいよアルベルチーヌ。
眠っている時の君には嫉妬の苦しみも、一緒にいる時の煩わしさも、何も残ってはいない。
まるで僕のためだけに咲いている一輪の花のようだ。
誰にも手出しはさせない。アルベルチーヌは僕の囚われの女だ」
「芸術作品は、その芸術家たちの心の叫びを表すひとつの道具のようだ。
ならば僕のアルベルチーヌに対する苦悩もまた、僕の芸術作品をつくる上でのひとつの道具にすぎないのだろうか」
アルベルチーヌとケンカして、別れ話をし、手紙を置いてホテルを出ようとしていた「私」は、
逆に、先にホテルを出たアルベルチーヌからの手紙を読んで、プライドを傷つけられる。
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その後、まったく連絡がなく、プライドなんてどうでもいい、手紙を書いて戻ってきてもらおうとしていた矢先、
アルベルチーヌが馬の事故で死んだと電報が届く。
生前書いた手紙には許しを請い、もう一度会いたいと書かれていた。
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廃人のように引きこもる「私」をアンドレが見舞いに来る。
アルベルチーヌがゴモラであること、そして彼女もアルベルチーヌを愛していたことを告げる。
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実家で母から紹介されたフォルシュヴィル嬢とは、ジルベルトのことで、ロベールとの婚約話を聞く。
母がスワンの死後、フォルシュヴィル伯爵と再婚して、伯爵の養女となったという。
だが、ロベールが浮気をしていることで悩んでいる。
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ロベールは志願兵となり、すっかりやつれてしまった。
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「私」は夜の街中で発作が起き、慌てて入った宿屋でシャルリュス男爵がSMプレイをしているところを見てしまう。
(喘息の発作ってパニ障と似てるなぁ
そこは、彼のためにジュピアンが経営している宿屋で、中身は娼館と変わりないという。
しかも、シャルリュス男爵はモレルを溺愛していたが、モレルは男爵を裏切って、ロベールの愛人になった。
そして、ロベールをも裏切ったため、モレルを探すため志願兵となったが、モレルはそれを知って脱走した。
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空襲の中で「私」は思う。
「かつて私がアルベルチーヌに対してそうだったように、彼らもきっとモレルへの愛情を捨てられずにいるのだろう。
人種の違いや、宗教の違いがあるように、彼らの愛する者が同性である以上、
彼らは社会から孤立し、互いに身を寄せ合って生きていくしかなかったのだ。
だが、その時、私はハッキリと目にすることができた。
神がソドムとゴモラの町を焼き尽くすかのごとく、一瞬にしてこの街を炎に包んでゆくその姿を」
モレルが脱走兵として捕まり「俺に対する復讐だろう!?」と抵抗するが、
ロベールからの手紙で「モレルは立派な芸術家だ。逮捕だけは許してほしい」という手紙が届く。
ロベールは名誉ある戦死。上官はロベールに敬意を表して、モレルに前線への出兵を命じる。
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場面は最初に戻る。ゲルマント大公からマチネーへの招待状が届く。
その道すがら、ジュピアンと、すっかり老いて温和になったシャルリュス男爵と再会して驚く。
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ゲルマント大公邸で、「私」は再び紅茶を飲んでフシギな感覚にとらわれる。
会場に入ると見知らぬ老人ばかりで戸惑うが、皆、かつての社交界の面々だった。
いまやヴェルデュラン夫人こそ、今のゲルマント大公夫人であると聞いて驚く。
ラシェルも老いていたが、かつてのスワン夫人は昔と変わらぬ美しさだった。
モレルは、「私」の存在に気づき、「ヴァントゥイユの七重奏曲」を演奏する。
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「私」は、幻想の中で、幼い頃の自分から“白い本”を渡される。
「今こそ感じたものを書き残せばいいんだよ。その幸福感を、感じたものすべてを!」
演奏が終わっても呆然としている「私」に挨拶しに来たのは、母親そっくりのジルベルト。
そして、ロベールとの間に生まれた娘・サン=ルー嬢を紹介される。
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「彼女は私の青春そのもの! スワン家とゲルマント家が彼女の存在でひとつながりになっている!
サン=ルー嬢は、私の失われた時のすべてを融合している!」
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病床の「私」は最期の時を使って、小説を完成させようとする。
「今やわたしは時空を超えた存在となったのだ!
私の失われた時は、紛れもなく目の前に広がっている。
あの感覚、あの瞬間! 音も味も感触もすべて思い出すことができる!
今まで一度たりとも止まることなく流れてきた時間・・・それは私だけのものではなく、
この世のすべての人々に今も脈々と流れ続けているのだ」
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「こうして私は再び歩みだす。失われた時を求めて」
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