メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『事件』(1978)

2014-08-13 21:55:23 | 映画
『事件』(1978)
原作:大岡昇平 監督:野村芳太郎
出演:永島敏行、松坂慶子、大竹しのぶ、渡瀬恒彦、丹波哲郎、佐分利信 ほか

永島敏行さんの出演作シリーズ。
レンタル屋で時々気にしていた作品。サスペンスだと思っていたら、本格的な裁判劇だった。
永島さんは、3本目にして主役の被告人役を堂々と演じている。若いっ!


trailer

story(ネタバレ注意
厚木の山中で女性の死体が発見された。「カトレア」という小さなバーのママをしていた坂井ハツ子。

 

逮捕されたのは、19歳の工員・上田宏。彼はハツコの妹・ヨシ子と付き合っていて、妊娠したため、
秘かに2人で町を出ようとしていたが、それを親にバラすと言われてカッとなり、登山ナイフで刺殺し、杉林に捨てたと供述する。

谷本裁判長(佐分利信)、菊地弁護士(丹波哲郎)、岡部検事(芦田伸介)いずれもベテランが揃って、公判が始まる。
自白があるため、一見、単純に見えた事件だったが、菊池の証人尋問によって、証言の食い違いが次々と暴きだされてゆく。

ヒロシ「ナイフは、ヨシコとの新生活のために買ったもので、ハツコを殺すつもりはなかった」
ハツコの血に染まったブラウスを見て、フラつくのを見ていた傍聴席からは「芝居だよ」「やるわね、若いのに」と野次が聞こえる。

菊池「白いジャンパーに血が飛び散ったという供述にひっかかる」

法廷に出る検事は、実際の警察の取調べ等を見ていないことで生じるズレを指摘し、
真面目な青年だったことを知るヒロシの教師だった花井に、ハツコのヒモだったヤクザの宮内辰造らをよく調べて欲しいと頼む。




●第二審
カトレアによく行っていた大村吾一には多額のツケがあり、宮内から恐喝されていた疑いが持ち上がる。
「口論している2人を見かけた」と言った八百屋のおばさんも、後姿をチラッと見たに過ぎない。

宮内「2年間同棲していたハツコは、ヨシコに中絶をすすめてケンカとなった」
そのうち1年間は、殺人で刑務所にいたため離れていたことや、戻ったら、ハツコとヒロシが付き合っていたことを知って口論したこと、
事件当日はハツコが急に家に来て、同棲しているキョウコと大ゲンカになったことなど、次々と分かってくる。




●第三審
ヒロシに軽トラを貸した友人の話では、「ヒロシの胸に洗濯バサミが入っていたのが見えた」ことから、
ナイフを売った金物店のおじさん(森繁久彌)は「あの人は楽しそうに買い物をしていた」と発言を変える。
検事が「なぜ警察の取調べで言わなかったんですか?」と問い詰めると「聞かれなかったことなんか思い出せないじゃないか!」と怒り出す。


判事「次第に菊池側に有利に傾いていますね」
裁判長「裁判は終わりまでいってみないと分からんよ」
判事「それにしても、菊池はなんでこんな金にもならん事件に執着しているんでしょう?」
裁判長「金にならなくとも、マスコミの集まる事件をやれ。これが弁護士商法の第1条だ」


検事から証人に立つよう言われたヨシコ。ハツコとヒロシは仲の良い幼なじみだったと言う。
あるきっかけでハツコは急に家を出て、新宿のキャバレーで働きだすが、実は、母の再婚相手にレイプされたからだったことは言わなかった。
その後、突然、別人のように派手な身なりで帰ってきて、近所に「カトレア」を開店させた。
実家に帰ってきたハツコを眩しそうに見つめるヒロシを演じる永島さんがステキ。

 

 

ヨシコは、ヒロシが好きで、姉と口論したことは伏せ、「姉は私たちを羨んでいるようでした」と証言。



菊池は「その後、ハツコさんを追いかけましたね?」と聞かれてギョッとする宮内。しばらく黙ってから「尾けたよ」
全員が揃っての現場実証で、ようやく事件当日の様子が分かりはじめる。。。

 


検事の論告:刑事裁判において、証拠調べが終わったのち、検察官が事実および法律の適用について意見を陳述すること。
「青少年の犯罪が増加する中、予防のためにも、未成年とはいえ見逃せません」

弁護士
「ヒロシに殺意はなかった。これは過失致死の事故である。死体遺棄についてのみ有罪を認めます」

裁判長+2人の判事による審議

「捜査が不十分だったことは否定できない。宮内の証言が全面的に信じることが出来ないにしても、
 これが捜査の段階で出ていれば、被告人の取調べ方針は違っていたはずだ。

 ハツコはすでに死んで真実が分からない以上、真実探究上の興味はあっても、そこに深入りするのは裁判官としてはできないことだ
 裁判官の事実認定はあくまでも証拠によってハッキリしたものだけに基づかねばならない
 裁判官は検察官の調書の中でどんな記載があろうと、独自な立場で判断しなければならない」


判決
 


●刑務所でのヨシコとの面会
「子どもは中絶すべきだった。オレみたいな父親を持った子どもは不幸せだよ!」
「そんなことはないわよ。犯した罪を償えば、あんたは、元のあんたに戻るのよ」
「2年や3年勤めて、あの罪は消えるだろうか?」


●刑務所での花井との面会

「なぜ? なぜ、ひと思いにボクを殺してくれないんです?」


****************************

ヒトがヒトを裁く難しさ。何が罪で、何が正しい罰なのか?
裁判劇は好きなジャンルだけど、裁判員制度で、もし自分が選ばれたら・・・と想像すると怖くなる。
単純に見える事件でも、ここまで複雑な人間関係、ウソと真実、誤解と偏見、それぞれの育った家庭事情などなど、
たとえすべて開示されたとしても、その罰をどう決めるかなんて皆目検討がつかない。

「死刑にしてくれたほうがラクだ」と思う加害者もいるし、
残された被害者家族は「目には目を」と思うかもしれないけれども、
罪の意識を背負って生き続けることのほうが、本当の償いになるんじゃないかと私は思う。
でも、性犯罪など再犯の恐ろしさもあるし。。。


●DVD特典
特報/予告篇/キャスト・スタッフ プロフィール/フォト・ギャラリー/シネマ紀行

特報には、原作者らの映像も入っているって珍しいパターン。
 

予告には、なぜかシンセを弾く男性が登場。
 





監督は、俳優に自然の掛け合いを求めた。このベテラン揃いなら、任せて安心だよね。



渡瀬恒彦さんは今作で数々の賞を受賞。

「私生活で離婚したばかりで、ヒモの役はどうかと周りからも言われたけれども、本が素晴らしかったので受けた」

「実地検証シーンでは、佐分利さんを困らせてみようと思って、宮内が2人を尾けて、雑木林の中でどう見てたかやって見せろと言われたから
 ヤクザらしく無造作に寝転んでみせたら、佐分利さんも同じように寝転んだ」って、すごいエピソード


「シネマ紀行」
ロケ地巡りとともに観光案内まであって、まるで「ナオミの麺紀行」状態
そして、環境問題にも言及。

「この雑木林は、昨年からの宅地造成のため、半分が切り崩されました。
 宅地造成、廃棄物処理、農業試験場。人間の身勝手な理由によって、本来の姿がどんどん消えつつあります」

「せっかくだから大山へも足を延ばしてみました」山岳信仰、独楽で有名なんだって。
ラスト、カップルが橋を渡っていくシーンはヤラセっぽかったな

コメント (2)

心の中のベストフィルム~『1900』(1976)

2014-08-13 21:10:01 | 映画
『1900』(1976)
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ロバート・デ・ニーロ、ジェラール・ドパルデュー、ドナルド・サザランド、ドミニク・サンダ、バート・ランカスター ほか

感想メモは「notes and movies」カテゴリーからの抜粋

ベルトルッチが『ラスト・タンゴ・イン・パリ』以前に撮ったにしてはこのキャスティングでこの超大作

一番仰天なのは、サザランドやドパルデューがとにかく若い 最初誰だか分からなかった。
デ・ニーロはどんな年齢にもなりきれる特異体質だけど。

監督も含め、この4人の役者らは今作以降も素晴らしい作品を次々と創り出し、
今なお円熟の頂点にいるわけだから、今作にその芽がまさに伸びようとする才能のルーツが見れるだろう。

デ・ニーロとサザランドはアメリカ生まれ、ドパルデューはフランス人、監督はイタリア人。
それでどうやって一つの村の物語りを完成させたのかとっても不思議。
ラストの数十秒のシーンはこの長編の中で最も衝撃的。
デ・ニーロとドパルデューの老人演技も凄い。



身分の差から始まって、生まれた時から敵同士でありながら、死ぬまで親友だった2人の男。
それを激動の時代、イタリアを舞台にして、ベルトルッチの初期作品とはとても思えない、
想い入れたっぷりのスケールの大きな、316分の超長編作。

「私は誰一人傷つけなかった。誰一人」

「しかし地主がファシストを作って、農民を苦しめ私腹を肥やし、
 有り余る金で戦争を起こし、農民を兵士として送り込んだんだ」


アルフレッドは結局地主である自分に満足していたのか?
それとも政治や周りのゴタゴタからいつも隠れ場所を探していたのか?

同じ40代にオルモが活き活きした眼を持っているのに比べ、アルフレッドはすっかり老け込んでしまっている。
でも、誰の人生も客観的に見ればあやふやで平坦なのかもしれない。
特に、こんな時代に少ない選択肢の中から自分がどちら側で、どこと敵対しているのかを知ることは容易じゃない。


これらの「イズム」は現代でも生き続けている。
労働者がまだ真の自由、働く自由、言動の自由等を得ていないということだ(ジョンはこれらに永遠にバイバイすると歌った
世代が変わっても、罪なくして罰せられ、それでもなお団結して戦い続けて死んでいった、
無知だが不屈の魂は受け継がれている。

もう一度観たいうちの1本だけど、ビデオの時代で3本分の長編だけにいまだそのまま
ドミニク・サンダはクールビューティで大好きな女優さん




コメント

心の中のベストフィルム~『マリアの恋人』(1984)

2014-08-13 20:56:07 | 映画
『マリアの恋人』(1984)
監督:アンドレイ・コンチャロフスキー 出演:ナスターシャ・キンスキージョン・サベージロバート・ミッチャム、キース・キャラダイン
 ほか

trailer

感想メモは「notes and movies」カテゴリーからの抜粋


サベージは『ディア・ハンター』にも出演。
サングラスをして、妻への想いを必死に抑えるシーンはすごくセクシー
キンスキーは、輝く黒真珠のようにキレイで、ひたすら夫を待ち続ける純愛の夫婦ドラマ。
何十回も見返したマイベストな1作v

コメント

心の中のベストフィルム~『白い炎の女』(1987)

2014-08-13 20:35:59 | 映画
『白い炎の女』(1987)
監督:マイケル・ラドフォード
出演:グレタ・スカッキチャールズ・ダンスジョン・ハート ほか

trailer

感想メモは「notes and movies」カテゴリーからの抜粋

イギリス女性のインドものはだいたい好きだが、それを『熱砂の日』に続いてスカッキが演じているとなるとなおさら。
『1984』のラドフォード監督が、特異な役柄に再びJ.ハートを起用しているのも嬉しい。
とにかくスカッキの完璧な美を堪能できるこの1本。

これこそマイベスト中のマイベスト 3人の大好きな俳優が一度に共演していて、テープが擦り切れるほど観た。
観た後は、心臓にポッカリ穴が開いたようになったけど。




コメント