メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

岩波少年文庫 3130『バラの構図』 K.M.ペイトン/作 岩波書店

2024-12-29 19:30:23 | 
1990年初版 掛川恭子/訳

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


面白いと思っていたら『フランバーズ屋敷の人びと』の作家だったか
過去と現在、それぞれの時代で悩みながら生きる青年を交互に描いて引き込んでいく

親の敷いたレールの上で自己を殺して生きているティムは
ガリ勉のせいで体調を崩してデイヴィッド・カッパーフィールドみたいなキャラ

代々続く身分に縛られて農耕以外では生きられないトム
牧師の家に生まれて、奉仕をしなければいけないレベッカの身もツライな
いつの時代の読者にも通じる感情が流れる

ペイトンの「ペニントン少年」を主人公にしたシリーズもあるとのこと
ウィキで調べたら、まだ1冊しか翻訳されてない?



【内容抜粋メモ】

登場人物
ティム・イングラム 16歳
レベッカ 牧師の娘
ベリンジャー牧師
メイ 娘 足が不自由
ネティ いとこ



ティムの父は広告会社の社長
母の気まぐれで田舎に引っ越して来た
ティムはガリ勉のせいで体調を崩して休校している

煙突に隠してあった缶を大工が見つけて、中から絵が出てくる
T.R.Iというティムと同じ頭文字の少年が描いた“ネティ”という少女の絵
描いたのは1919年2月17日

教会の墓地で同じ頭文字の墓石を見つけて驚く
亡くなったのは絵を描いた次の日で、少年は15歳だった
ティムは少年を知っているような気がする



ティムは牧師館の娘レベッカと知り合う
顔中そばかすだらけで、ちぢれた赤毛のコ
T.R.Iの謎を話すと興味を持って一緒に調べてくれる

レベッカの両親は奉仕活動で忙しく、きょうだいもみな慈善活動をしている
レベッカは親の愛に飢え、容姿にコンプレックスを抱え、家族になじめずにいる

教会の記録には、当時、地主がカーリュー屋敷に住んでいたと分かる
モーゼじいさんはトム・インスキップという少年を知っていた
モーゼじいさん:当時は畑仕事か軍隊に入るしかなかった



当時の牧師はブリムストーン・ベリンジャーでとても厳しく、周りを震え上がらせていた
ベリンジャー牧師が娘メイを連れて学校の視察に来ていたが
トムは話を聞いていなかったため赤恥をかく
メイはトムの描いた絵に目を留める



ティムは母とともに校長に会う

校長:
オックスブリッジ(オックスフォード大学とケンブリッジ大学)を狙わせたらと思っている
クリスマス後に寄宿生として引き受けましょう

美術担当のダーク・ホース:
私はおまえの父親と同じ仕事をしたことがあるからどんなものか知っているが
おまえには向いちゃいない

墓石屋の帳簿には昔の注文履歴が詳しく載っていた
トムと同じ日に催されたカーリュー屋敷の最後のキツネ狩りの日に
猟犬が10頭亡くなったのがひっかかる



逃げた馬を捕らえるのに舌を噛んで血を流しているトムを見て
メイ嬢は手当をしながら、絵の才能を伸ばすために自分が見てあげると申し出る

メイ:
神さまから授かった才能は使わなくてはいいけない
私は無駄に生きている人間です
時間はいくらでもありますからお役に立ちたいのです



“見る目さえあれば、絵になる構図が、心を躍らせるものが、どこにでも転がっている”
ティムはピアノで♪名残のバラ(日本では♪庭の千草)の音色を聴くが誰も弾いてはいなかった

ティムはトムの描いた絵と同じ風景を描いてみる
トムの絵にマーメイドという猟犬が描かれている
それは墓石にもあった猟犬の1匹だった

母はティムの絵を見て「化粧品の広告に使ったらステキ」と評したことに怒り
「学校には戻らない」と伝えるが母は本気にしない

ピアノの中にネティとメイ・ベリンジャーの楽譜を見つけたレベッカ



メイはいとこのネティにピアノのレッスンをさせ、トムにはシダの絵を描くよう指示する
1日12時間も労働した後で絵を描いて何になると思いながらも
ネティに惹かれて週2回通うトム

ネティと見つめあうトムに嫉妬してメイは叱るが
愛猫ファーディを描いた絵を褒める



ティムは「父の会社に入りたくない」と両親に話す
父母はどれだけ苦労して今の地位を築いたか話すが
そんなことはティムには何の関係もなかった
(そうなんだよね/汗

ティム:頼みもしないものをもらったからって有難がれないさ
父:畑仕事でもしてみるといい 年中続く退屈な重労働に追われるのがいいというのか

ティムは好きな絵を描くために、生活費を稼ぐ仕事が必要だと考える
トムの丈夫な体、肉体的な疲労感を羨ましく思うが
トムはそんな生活を望んでいただろうか?

一度、復学に同意してしまえば、あとはベルトコンベアに乗せられ
降りる勇気は二度と出ないだろう

レベッカはネティが結婚せず名前が変わらなかったために住所を突き止め
2人で訪ねるが、数か月前に倒れて病院に運ばれていた

クリスマス前夜祭ダンスパーティーが憂鬱だと話すレベッカ

レベッカ:
困るのは私のほうから出向いていくんじゃないってこと
ウチが会場なんだもの

パーティー好きなティムは金髪のナンシーと知り合い
レベッカがモテるロッドに夢中だと聞いて複雑な気持ちになる

レベッカはドレスも着ずに台所にこもって泣いている
気晴らしにドライブに出かける2人



翌日2人でバスに乗り、ネティの入院している病院を訪ねるが
ティムは会う気になれず、レベッカだけが面会する
ネティ:みんな私が悪かった マーメイドのために



トムは屋敷の料理人が食事の残りを片付けているのを見て
飢えるとはどんなことかメイ嬢は知らないに違いないと思う

メイにクリスマス晩さん会の手伝いを頼まれ
馬の世話、客を案内したりした後、暖炉に丸太をくべていると
ネティの息をのむほどの美しさに見惚れる
ネティ:マーメイドを描いてね ファーディを描いたみたいに

主教は仲良く座って話す2人を見て、ネティに説教する
トムは自分の身分の低さに腹が立つ



マーメイドがファーディを食い殺してしまい
メイの深い悲しみを見て同情し、ネティの冷酷さを知るトム

畑の若菜をうろぬく退屈な仕事にうんざりしている所にネティが来て
「メイにサクラソウを摘みたいから一緒に森へ行こう」と誘う

ネティに思いやりがないのがハッキリしたのに、断れず
2人で散歩しているのを地主のペティグリュー氏が見かけて
馬を戻した際に落馬するのを見て、トムは逃げ出す



ティムは鍛冶屋で仕事を見つけ、週5ポンドで働き始める
父母はロンドンにアパートを見つけて引っ越した

父がただ家にいるだけでどれほど強い影響力を持っていたがわかるとともに
初めての自由、解放感にうっとりする

夜になると疲れきって、いろいろ悩む暇もない
今まで悩んでばかりいたのは、時間がありすぎたのだ


ティムは氷の張った池でスケートしようとレベッカを誘う
その日がトムの命日と気づいて不安がよぎる

トム:自分も同じ目に遭わないよう気をつけなよ と言った意味は何だったのか?

スケート靴を履いているティムを必死に止めるレベッカ
ネティに言われて地方紙を調べて、トムはこの池で溺死したと分かる



トムはネティのことでクビになり、父からひどく殴られる
田舎では噂が広まり、トムがネティを襲って、森にさらったまで尾ひれがついている

メイだけがトムを信じて、すべてネティの責任だと認め
トムがまた働けるように雇い主にかけあってくれる

多忙期になると噂も消えて、トムは元の仕事に戻る
ネティに対する気持ちも変わらなかったが、会うことはない
ネティを描いた絵を缶に入れて煙突に隠す

用事を頼まれてカーリュー屋敷に行く途中、キツネが池を渡るのを見る
キツネ狩りの猟犬たちが追ってきて、溶け始めた氷で動けなくなる

その中にマーメイドもいて、ネティが助けてくれと懇願する
ネティ:トム、お願いよ 私のために!

英雄的行為は好きではないが、「一番軽い者が行け」と言われて
トムは猟犬を捕まえようとして冷たい池に落ちる

村からの援軍がやっと来た時にはもう遅かった
メイはファーディが亡くなった時と同じ目をしていることに気づく

なんで今、あんな顔をしてるんだろう
なんにも悲しいことなどないのに

(死自体は実際のところ苦しくも悲しくもないんだよね



ティムは引っ越しを済ませて、一人暮らしを始める

母:この先、どうやって出世するつもりなの?
ティム:父さんのやっていることよりマシな仕事さ

ネティが亡くなり、メイからの手紙の返事が届く
ネティはトムの死後すっかり変わり、戦時中は従軍看護婦になった
年をとってからはほとんど会う機会がなかった
ネティは独身でいたが、自分は結婚し、3人の子ども、2人の孫がいる

トムの一生は短いものでしたが、とても幸せでした
多くを望まず、与えられたものを神の御恵みとして受け入れ
全き精神的恩恵の中にいられたからです

トムは自覚していた以上にネティが好きだったと思うが
私ほどトムを深く愛した者はいないでしょう


ティム:
トムは年をとって死ぬまでペティグリュー氏のために働き続けて
心から幸せだと思うほどめでたかったとは思わないな
トムの“全き精神的恩恵”も擦り切れちゃうだろう


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