「あれはスマート爆弾じゃないかね」とJSは顎の無精ひげをこすりあげた。
「なんですか、スマート爆弾って」としばらく間を置いてからEHが反問した。
ベトナム戦争で米軍が使った精密誘導爆弾のことかい、と思い出したように確認した。
「いやいや」
「時限爆弾のことですか」と第九が別解を試みた。
「フム」とJSが唸った。それぞれが年齢によって連想することが違うね、と付け加えた。
ママのお使いで買い物に行っていたらしい長南さんが戻ってきた。コンビニの紙袋をママに手渡すと、我々が来ていることに気が付いて寄ってきた。好奇心旺盛な彼女は年寄り連中の昔話がためになると思っているらしく暇があると我々の話に加わるのである。なにしろ彼女は若き哲学徒であるので。
空いている席にどっかりと腰を落とすと、老人のようにさも疲れたような様子を見せてふくらはぎを揉みしだきながら左足を右の膝の上によっこらしょと言う風に直角に乗せた。おいしそうな太ももと膝が露出した。レジからこれを見ていたママが眉をひそめた。
スマート爆弾というのは、時限爆弾のことだよ、とJSは講釈を始めた。
早速長南さんが反応した。「時限爆弾ってテロリストが使う?」
「ははは、もっとも若い世代の連想はまた違うんだね」とJSは黒く変色した乱杙場を剥きだして笑った。「もっともアタシもその当時時限爆弾と言っていたかどうかはもう記憶にないんだが」と老人は続けた。
「大東亜戦争の時なんだが」
若き女性哲学徒が早速質問した。「大東亜戦争って?」
老人は長南さんを見て苦笑した。太平洋戦争のことですよ、といってから怪訝な顔をしている彼女を見て、これもダメかとつぶやいた。「第二次世界大戦アジア戦線のことだわね」
もっとも欧州戦線でもほぼ同じころに使われ出したらしいがね、とJSは言った。「砲弾という言葉はわかるよね」と彼女を確認するように見た。「大砲からドンと打ち出すやつさ、これは欧州戦線でナチス国防軍が使ったらしい。日本ではアメリカ軍が市街地に無差別爆撃を加えた時に落とした爆弾にこういう仕掛けを使ったんだ。地上に落下するだろう、しかし爆発しない。それ不発弾だと駆け寄って弄り回しているうちに時限装置でドカンといくわけだ。子供なんかは不発弾なんて言うと戦利品みたいに夢中になるからね。それで大分死んだよ。そうそう、思い出した、たしか馬鹿ボンとか言ったと思ったがな、違ったかな」
そういえば、と人並み以上に連想力の発達した長南女史が独り言のように発言した。「天才バカボンっていう漫画があったわね。あれもそこからきているの」と無邪気に質問した。
「わたしゃそんなことは知らんよ」とJSは邪険に応じた。
しばらく一座沈黙。
そういえば新型コロナも似ているな、と言ったのはCCだった。「しばらく無症状、陰性でいきなり強烈な感染力を持つようになるのはバカボンの二十一世紀版だ」
「だろう?」ようやく皆に分かってもらえてJSはほっとしたようであった。
「しかも無症状期間が人によってマチマチなところなんかは兵器としては非常に完成度が高い」と誰かが感嘆したように言った。
67:コロナ・スペシャル・セブン
以下次号