「父ちゃんが見つけてきたものの調査は終わったの」と二歳の息子が海藻とイカのミンチで作ったハンバークによだれを垂らして食いつきながら聞いた。この社会では二歳になれば知的にも一人前に成長する。
脇から母親が「食べながら話すのはやめなさい」と注意した。
「だいたいな」とカキを殻ごと足で丸い胴体の下に持っていき、ものすごい音で砕きながら答えた。
「サルに似ているって本当?」
「まあな、似たようなものかもしれない。サルよりかは少し利口かもしれないがな。その辺はまだ研究中だ」
「生き返らすことは出来なかったんでしょう?」
「残念ながら蘇生処置は成功しなかった。しかし絶命後間もなかったし、我々の保存処置がよかったから、解剖学的にはほぼ完ぺきなデータが得られてそうだ。
まず脳がある。我々みたいにな。重さは1300-1500グラムだ。註;もちろん宇宙人の重さの単位は違う。グラムなんて使わないが読者の便宜のために地球人の単位に換算している。以下すべておなじ。
体重に対する比率は2パーセントくらいだ」
「そうすると体重に対する比率はわれわれ宇宙人の比べるとどうなの」
我々の場合は平均して脳は50キロある。体重比もかなり高い。平均して5パーセントくらいかな。それに決定的な違いは脳の組成を調べると我々より大分劣る。と言うことは電導率やその他の性能がかなり劣る。つまり材料が粗悪なので知的な処理能力はかなり劣ると考えられる。註;粗悪なICチップと品質のいい集積度の高いICチップの比較を考えると分かり易い。
「そうすると僕たちよりも大分頭はわるいんだね」
「そうだろうな」
「猿に似ているって言ってるけど、サルよりかは利口なんでしょ」
「そりゃそうだ。サルに比べれば大分知的だろうな」
「勿論話せるんだよね」
「そうらしい。解剖学的には発声器官らしき組織もあるし、それに宇宙船のなかにあった大量の資料からすると、文字や数式も使えたらしい」
「じゃ、今度生きている彼らに出会ったら話が出来るかもしれないね」
「将来はその可能性がある。今は彼らの言語を分析中だ。我々の言語よりかはかなり原始的なようだがな」
「だけど、彼らだって科学知識はあるんでしょう、宇宙船で地球をとびだしているのだから」
と母親が問いかけた。
「彼らの文書が解読できれば、どの程度の科学知識があるのか分かるだろうよ」
「あなたには分からないの」と母親が口を尖らせた。
「おれは専門家じゃない。宇宙艇の船長にすぎない」
合成樹脂の分厚い透明の膜で覆われた天幕のなかで艇長一家が夕餉の団欒を過ごしているうちに外は早くも暗くなりだした。テントの脇には基地内の幹線道路が走っている。スイッチが切り替わったように、暗黒となった外では交通信号が一斉に瞬きだした。
「あ!、セブンレッドだ」と子供が叫んだ。一直線に伸びている道路に沿って漆黒の闇の中で全部の信号が赤に変わった。子供は興奮して六本の足を水の中でバシャバシャと跳ねた。水はこの惑星では貴重品である。艇長クラスの上級士官には家族用の住宅が与えられて常時豊富な水が供給されている。腰から下は、球形の体の下に生えている脚を温水につけて生活している。