穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

墨東奇談の成功の鍵は叙述スタイル

2023-11-01 17:03:07 | 書評

岩波の荷風選集小説編によると、「梅雨のあとさき」と「墨東奇談」のあいだに「ひかげの花」という小説がある。墨東の出来が突出しているので間の「ひかげの花」を最初のほうだけ目を通したが、陳腐で感心しない。叙述はあるひものものである。

とすると、墨東の突出した出来は徐々に出てきたものではない。おそらく墨東の成功は叙述スタイルにあるようだ。荷風の花柳小説の叙述は男性にしろ、女性にしろ花柳界に住む人物の語り、あるいは視点である。墨東奇談の私は疑似荷風である。それが全編の質を高めている。疑似荷風の、なれいしょん、は他にあったかなと思い出してみると、初期の筆力が未発達の段階の作品には、いくつかあるようだが円熟期の作品にはないようだ。もしこの記憶が正しくなければ訂正してください。

墨東の成功の理由を荷風が自覚していたら、それ以降の同様の作品があってもおかしくないが、記憶では墨東だけのようだ。違いましたっけ。

 


命が延びる気がする、、

2023-11-01 08:29:07 | 書評

荷風の著作は「つゆのあとさき」「日陰のはな」「墨東奇談」と続くのだが、墨東奇談は疑似主人公が筆者である唯一の例ではないか。それだけに荷風の得意とする随筆の特徴である鋭さが先鋭に出ている。

墨東奇談は数度読み返しているが、そのたびに荷風の言葉を借りれば*命の延びる気がする*岩波文庫13ページ