午後三時、図書館の椅子の七割は不細工の女子高校生が占領していた。図書館に入った富士川はその様子を瞥見すると、すでに机に座ろうとする意欲を失っていた。図書館の椅子が木偶木偶した女子高生の大群に占領されているのを見ると彼は意欲を失った。
新聞閲覧所に行くと彼がすでに来ていた。となりに腰を下ろすと今日は、と挨拶をした。新刊の週刊誌を見ていた彼は顔を上げると挨拶を返した。「どうですか、作品は捗っていますか」と尋ねた。
「いや、さっぱりですよ。とっかかりがないんですよ」
「あの例のテラス事件と奮闘しているのですか」
「そうなんですが、書くとなると難しくてね。それに今日は閲覧室の机は不細工な女子高校生で占領されていますしね」
「本当に今日はそうですね。時々彼女たちは大挙して現れる。うちで勉強したほうが捗ると思うのにね」
「いや、あの連中の心理はわかりませんね。大勢でつるんで図書館に行くと勉強が身になるとでも錯覚しているのかな」とため息をついた。
「レストランで連れてきた幼児が喚き散らすのと、図書館を占拠する女子高校生ほどはた迷惑なものはありませんね」
「まったく。。」それでね、と老人は思いついてように尋ねた。
「どうも、カフカのテラス事件と私の場合とは違うような気がするんですよ。最初はその比較がとっかかりになると思ったんですがね。比較するのは無理なんじゃないか、と思いましてね」
「なるほど」云うと富士川の顔を注視した。「お宅の経験はどんなことでしたかね」と反問した。