穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

ミラン‣クンデラ「冗談」

2024-02-22 06:37:16 | 書評

岩波文庫西永良成訳で100ページほど読んだ。共産主義国での学生運動のごたごたを一個人、おそらく筆者の経験、をもとにして書いている。日本の同時代の学生運動と比較してみると面白いかも。

チェコでは国家は共産主義体制であり、学生運動は政府に追随補完する役割である。行ってみれば戦争中の翼賛体制での町内会の役割だ。

対して日本の同時代の学生運動はアメリカの支配の濃い自由主義体制に対する強烈な反発である。したがって日本の当時のほうが運動は激烈、容赦のないものだった。テロ、凄惨な内ゲバは日常茶飯事だった。もちろんシナ、ソ連の強力な支援のものに。

クンデラの描く学生運動は生ぬるく、ガールフレンドへの手紙の内容にケチをつけるようなことをしていたらしい。そして、驚くなかれ、女子学生に付文した主人公は学校を追われて地方の軍隊に入り炭鉱で働かされる。

体制に阿諛追従する学生運動はやりたい放題というわけだ。そのかわり、日本のように激烈な反体制運動とは無縁である。

その辺の事情をくみ取れば、まあ、比較一読の価値はあるかもしれない。

 


推理小説の文庫上下二巻は破綻することが多い

2024-02-22 05:58:18 | 犯罪小説

柚木裕子の盤上のひまわりという将棋少年の小説を上巻だけ読んだ。この作家は前に題名を忘れたがちょっと興味を持ったので頭書を読んだ。下巻に入ると、棋譜もなしに駒の動きを書く。おそらく将棋の練達者でもフォローできないだろう。まして将棋に関心がない読者には意味がない。

こんなことでページ数を増やすのは編集者の悪知恵で推理小説の類で上下二巻に分けるのは売り上げを増やすのが狙いの出版社の知恵だろうが、成功した例は少ない。