穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

8-4:老人は語り続ける

2018-10-03 08:21:32 | 妊娠五か月

 老人の意外な経歴について3秒ほどかけて考えを巡らしていると、老人が再び口を開いた。

「なんでこんな話をはじめたのかな」と自分でも戸惑っているらしい。「そうそう小説を書いているとお話ししたらあなたがあまりびっくりしたので、なにか説明しなければ、と思ったんです。マイコン趣味なんて何の関係も小説とはないとはいえるが、暇つぶしという点では共通しているんでね。マイコンいじりから説明しないといけないと自分でも思ったんでしょうね、ほとんど無意識に。大体が無趣味な人間でね、普通の人なら中学生とか高校時代に卒業するラジオ制作のような趣味になぜ中年になってからはまり込んだかと言うとですね、ひとつにはもともと無趣味な人間だったからです。それにラジオや無線機やオーディオ自作とは違って大変な可能性があるという予感があって興味を持ったんですね」

  老人は自分の考えをまとめるように自分の爪を一本一本調べるように見ながら考え込んだ。

「話が飛ぶんですがね、パソコン趣味と言うのは結構長く続いてね。とにかく進歩が目覚ましくて次から次へと新しい機種が出てくる業界でしたからね。退屈はしなかった。

 しかしさっきお話ししたように年齢とともに針仕事みたいな細かい作業が難しくなる。そこで本でも読もうかと方向転換したんですよ。私は本というものをほとんど読んだことがなくてね。普通の人間だと学生時代に手当たり次第に読書するのが普通でしょうけど、学生時代も本を読まなかったし、会社員になれば忙しくて本なんか読んでいる暇がなくなるでしょう。退職して時間が出来ると誰でもまた学生時代のように読書をしようと思うらしい。私の場合幸いだったのはこれまで本など読んだことがないから、読む本を探す必要などまったくなかったんです。なにも読んでいないに等しいから、読む対象は無尽蔵でしたね。質を考慮しなければね。しかし読書はマイコン趣味ほど続かなかったな。つまらない本が多かったし、それにさらに加齢すると文庫本なんかの細かい字を読むのも億劫になってね。

 一方でマイコンや初期のパソコンではワープロソフトがいくつもあったが、今ではワードなんかが寡占と言うよりか独占状態でしょう。以前は色々なソフトを試したりする楽しみがあったが、いまは全部お仕着せですからね。しかも私にはほとんど必要がないフリルが増えてくるばかりです。ソフトが重くなるし、やたらとバージョンが改定される。

  つまり(つくる)とか(いろいろ試す)という遊びもできない状態になっている。まえからワープロは色々使っていたが、ふと悪戯心で小説でも書いてみようかと思ったんですね。それで書いてみると意外な発見したんですが、(読む)ということが目に負担をかけるほど(書く)という行為は目には負担にならない。これは楽ちんだな、と(書く)派になったわけです」

  老人は今の要約でよかったのかな、と考え込んでいるようだった。

Tがなるほどねと言うと安心したようだった。

「しかしなぜポルノなんですかね」

「そうそう、そこを説明しなければいけませんね」と老人は笑って頷いたのであった。

 


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