ダウンタウンのウェイトレスはみんなマスクをしている。客は常連の下駄顔が一人だけだ。寂しそうに座っている。コーヒー一杯千円と言う値段で普段から客が少ない店なのだが新型コロナ騒ぎで全然客が来なくなったらしい。
客がいなけれがコロナに感染する可能性もないわけだから好都合だと第九は肚の中で考えた。もっとも一杯二千円に値上げされると困るが。それよりか店をたたんでしまうかもしれない、と彼は考えた。
「引っ越し先は見つかりましたか」と下駄顔(ジャパニーズダンダル以下JS)が聞いた。
「なかなかありませんね。物件は腐るほどあるらしいけど条件にあったのはね」
「あんたのかみさんは注文がうるさいからな。そりゃ、何です」
第九がテーブルの上に投げ出した無料雑誌をみてJSが言った。
「地下鉄の駅の無料スタンドにあった雑誌でね。新築マンションの情報誌らしい」
JHは物珍しそうに手にとると「へえ、隔週発行って書いてあるな。いいのがありそうですか」
「どうですか、電車の中でパラパラめくってみましたがね。新宿からタクシーで千三百円なんてのは無いようです」
「そうでしょうな」
入口のあたりが騒々しくなったと思ったら卵型頭の老人と診療所から検査サンプルを集めて回っているCCさんが一緒に入ってきた。
「どうです。繁盛していますか。コロナ騒ぎだから検体が沢山あつまるでしょう」
「コロナウイールスの検査は特殊だからね、普通の診療所じゃ扱えませんよ。もっとも医院はどこも満員でね。ゴホンゴホン、ズルズルですよ」
「風邪の患者が多いんだろうね」
「風邪とインフルエンザね、もっともインフルエンザはその場で調べられるからこっちの商売とは関係がないけどね」
「そんなところを回っていると風邪がうつりそうじゃないか」
「ほんとですよ、風邪くらいならいいが、中にはコロナの患者もいるかもしれないからいやだな」
「コロナと言えばあの暴れ方は異常だね」と卵型(エッグヘッド、以下EH)が口を挟んだ。
「あの振る舞いはこれまでのインフルエンザと全然違うでしょう。天然由来なのかな」と第九が言った。
「天然由来というと」
「例えば最初は蝙蝠のウイールスだとか報道されていたが、最近は言われなくなったでしょう」
「それで天然じゃないというわけ」
「もともとは蝙蝠かなんかにいた天然のウイールスかもしれないが、人間が遺伝子操作を加えたという可能性があるんじゃないのかな」
「ふーん、ありうるかもな、変異するなんていうけど、フェーズが飛躍しすぎているよね。チンパンジーからゴリラをつくるような飛躍だものな。遺伝子操作の可能性があるかもしれない」とEHはつぶやいた。