理論的にはつぎの諸ケースが考えられる。
A・戸籍上の父母=実際の父母
B・戸籍上の父=実際の父、戸籍上の母X=実際の母
C・戸籍上の父X=実際の父、戸籍上の母=実際の母
D・戸籍上の父母両方ともX=実際の父母
Aでないとすると、Cの可能性が低いとするとBか。つまり父がほかの女に産ませた子供を家に引き取るケースだ。現実にもままあることである。太宰は暗々裏にこのケースの疑問になやまされていたようだ。
しかし、Dのケースが意外に有力とみる。要するに養子みたいなものだが。
子供が十人以上いたから跡取りに養子をもらう必要はない。残るケースは断れない人から頼まれるとか押し付けられるケースである。
太宰が東京で心中騒ぎを起こしたり、共産党細胞にアジトを提供したりしたときに、長兄が尻拭いに奔走しているさまは尋常ではない。
父親はすでに死んでいるわけだし、異腹の弟、それも妾かなにかの子供ならこうはしないだろう。
それで、私は、父親が世話になった、断れない事情がある人物の隠し子の処理を任されたケースがあると考える。
父親そのものが経済的な成功者であり、祖父だったかな、貴族院議員になっているわけだから、その人物とは政界、経済界などの相当な実力者の可能性がある。
太宰治がその可能性まで疑っていたかどうかはわからない。しかし、平気で何度も実家の兄を尻拭いで奔走させているところをみると可能性は考えたかもしれない。