緊張の後は、誰しも気が緩む。とはいえ、新型コロナウイルス下で1月からの緊急事態宣言の解除後に発覚した大阪府市職員による「ルール違反」の不適切会食は、いま振り返っても衝撃的だ。府市の調査によると、申告した職員は実に計2356人。吉村洋文知事の足元で府民に自粛を求める側の甘すぎる認識が招いた不祥事は、府が今後打ち出す感染症対策への影響を考えると軽くない。
「4人まで」ルール逸脱
「許されない行為で、厳正に対処したい。あってはならないことだ」。府市による不適切会食の調査結果が公表された4月27日、吉村氏は記者団に厳しい表情でこう語った。
発端は4月3日。大阪市の発表により、3月26日に高齢施設課の職員9人が焼き肉店で送別会を開き、2人が感染したほか、河川・渡船管理事務所などの職員5人も同日、居酒屋で会食し、3人が感染したことが分かった。
4月6日には府大阪自動車税事務所でも不適切会食が判明した。3月31日に2件の送別会を開き、7人ずつ計14人が参加。6人のクラスター(感染者集団)を含む計7人が感染した。
これらの会食は、いずれも2度目の緊急事態宣言が解除された3月1日以降のことだ。ただ府は解除後の感染再拡大を警戒し、同日から大阪市内の飲食店に午後9時までの営業時間短縮を要請。府民にも、4人以下のマスク会食の徹底と歓送迎会などの自粛を求めていた。
午前1時まで飲食も
府が3月1日~4月6日の期間に「5人以上」または「大阪市内の飲食店で午後9時以降」に会食したかを記名式アンケートで尋ねたところ、知事部局の職員約1万300人のうち部長級1人を含む332人が、府教委では約1万4千人のうち413人が該当した。
市の聞き取り調査では、3月1日~4月4日の間に不適切会食をしていたのは市長部局の職員が1164人、市教委で447人に上った。
これらは延べ人数ではなく実数だ。府でいえば知事部局も府教委もそれぞれ調査対象者の3%程度だが、吉村氏は「感染対策の徹底をお願いする職員がルールに反していた。深くおわびする」と頭を下げた。
市では局長級幹部4人が「5人以上」の会食をしていたほか、水道局の送別会には1回の会食で最多となる25人が参加していたことも明らかになった。午前1時まで続いた会合もあった。松井一郎市長も「市民に制約をお願いしながら役所の人間が守らず信頼を失った。申し訳ない」と謝罪に追われた。
当事者側の認識はどうだったか。大阪市高齢施設課の担当者は当時「テーブル間の行き来はなく実質的に少人数になるため、ルール上、問題ないと思った」と説明。府大阪自動車税事務所の担当者は取材に「感染者数も減ってきていて、年度末ぐらいは行ってもよいのでは、と思った。甘かった」と悔やむ。
職員の処分は
今後の焦点の一つは、職員の処分だ。
府市の不適切会食が発覚する直前の3月下旬、厚生労働省で介護報酬などを担当する老健局老人保健課長を含む同課の職員ら23人が東京・銀座の飲食店で送別会を行い、当時の課長が更迭され、減給の懲戒処分を受けた。ほかの19人は訓告などの処分となり、残りの3人は自治体からの研修生で処分されなかった。
吉村氏は府職員の不適切会食を地方公務員法が禁じる「信用失墜行為」にあたるとして、厳しく対処する考えだ。
ただ公務員倫理に詳しい近畿大の中谷(なかや)常二教授は信用失墜行為について「交通事故やわいせつなどの犯罪行為が想定され、今回は行政罰までだ」と指摘。「申告しなかった違反者がいる可能性もあり、公平性に疑問も残る。職員に警告するにとどめ、懲戒処分はしないのが妥当ではないか」との見方を示す。
何より深刻だと思われるのが、折に触れて「4人以下の会食」の徹底などを呼びかけてきた吉村氏のメッセージが、吉村氏を支える職員の一部に届いていなかったという点だ。
府市はこれまで感染症対策に関わる府の要請や国からの通知を順守するよう職員にも注意喚起していた。2度目の緊急事態宣言が解除された3月1日も「4人以下のマスク会食の徹底」などを呼びかけるメールを送っていた。担当者は「周知が足りなかった」と肩を落とし、「職員の意識の欠如としかいいようがない。恥ずかしい限りだ」と憤りをあらわにする。
今月31日には、延長された3度目の緊急事態宣言が期限を迎える。6月1日以降、府がどのような対策を講じるにしても、府民に対し、どこまで訴求力を持ち得るか。疑念は消えない。(尾崎豪一)