50年代後半のハードバップ黄金時代を支え続けたブルーノート・レコードですが、60年代に入ると新たな路線を模索し始めます。一つがモード~新主流派路線でウェイン・ショーター、ジョー・ヘンダーソン、ハービー・ハンコックらで、評論家からはジャズの王道として高く評価されています。一方、もう一つの路線であるオルガン入りのソウルジャズは、後世のジャズファンからは無視されることが多いです。売り上げ的にはむしろこちらの方が高かったにもかかわらずです。まあ確かに特に60年代後半のソウルジャズにはダンスフロアを意識し過ぎた軽薄な作品が多くあるのも事実ですが、聴き応えのある作品も少なからずあります。本作「ステッピン・アウト」はそんな作品の一つ。リーダーであるハロルド・ヴィックはジャック・マクダフのグループのレギュラーメンバーとしてプレスティッジに多くの録音を残しています(「クラッシュ!」参照)が、自身のリーダー作はブルーノートに残した本作が初です。録音年月日は1963年3月27日。メンバーはブルー・ミッチェル(トランペット)、グラント・グリーン(ギター)、ジョン・パットン(オルガン)、ベン・ディクソン(ドラム)です。
全6曲。うち1曲だけスタンダードの”Laura”が入っていますが、後はヴィックのオリジナルです。その”Laura”も内容的には取り立てて特筆することもなく、中盤の箸休め的な存在です。何と言っても聴きどころはソウルフルなナンバーの数々。1曲目の”Our Miss Brooks”から濃厚なソウルジャズの世界が広がります。レイジーなテンポで悠然とブロウするヴィック、ホーンライクなグリーンのギター、アーシーなパットンのオルガン。ブルー・ミッチェルもこの曲ではソロを取りませんが、他の曲ではファンキーなトランペットを聞かせてくれます。5曲目"Vicksville"やラストの”Steppin' Out”もR&B色の強いナンバーです。その一方、2曲目”Trimmed In Blue”や4曲目”Dotty's Dream”はそこまでコテコテではなく、ややモーダルな雰囲気も漂わせており、当時のブルーノートの空気感が感じられるようです。