本日はハロルド・ランドをご紹介します。ランドと言えば何と言ってもブラウン=ローチ・クインテットのテナー奏者。「スタディ・イン・ブラウン」はじめ同クインテットの傑作群を通じてほとんどのジャズファンは彼のテナーを耳にしたことがあると思います。一方でクインテットの主役はあくまでクリフォード・ブラウンとマックス・ローチ。ランドは脇役の存在であったことは否めません。その後ブラウン=ローチ・クインテットは東海岸に拠点を移しますが、ランドは同行せず、引き続きロサンゼルスで活動を続けました(代わりに加入したのがソニー・ロリンズ)。黒人ハードバップの中心地ニューヨークに行かなかったことがランドが実力のわりに地味な存在に甘んじている要因の一つかもしれません。どうしてもジャズファンの間では西海岸=白人ジャズという固定観念があり、ランドに限らず西海岸で活躍する黒人ジャズマンは過小評価されがちです。
本作「ハロルド・イン・ザ・ランド・オヴ・ジャズ」は西海岸を代表するコンテンポラリー・レーベルに吹き込まれたランドの初リーダー作で、ランドだけでなく西海岸の黒人バッパー達が一堂に会しています。ピアノが夭折したカール・パーキンス、ベースがリロイ・ヴィネガー、ドラムがフランク・バトラーと全員名手揃い。トランペットが唯一白人でスウェーデン出身のロルフ・エリクソンが参加していますが、彼も後にミンガス・グループやデューク・エリントン楽団に在籍するなど隠れた実力者として知られています。
全7曲、うち2曲がスタンダード、残りがオリジナルです。オープニングはクルト・ヴァイルの名曲”Speak Low”で、序盤からランドが好調なソロを聴かせてくれますが、途中のエリクソンのカットインがやや乱暴で毎回聴いていてドキッとします。3曲目も定番スタンダード”You Don’t Know What Love Is"でこれはランドのワンホーン。ロリンズやコルトレーンでも知られるバラードをランドが渋く吹き切ります。ただ、個人的には残りのオリジナル曲、特にランドの自作曲を推したいです。2曲目”Delirium”はタッド・ダメロンにも同名の曲がありますが完全な別曲。ちなみにdeliriumは精神病用語で譫妄(せんもう)と言う意味らしいです。変なタイトルですが、曲自体はメロディアスなバップ曲です。6曲目”Lydia’s Lament"はややモーダルな雰囲気のするバラード曲。何となく60年代のジョーヘンっぽい感じです。7曲目”Smack Up”は痛快ハードバップで、2年後にアート・ペッパーがカバーし、アルバムタイトルにも取り上げた名曲です。これらの曲を聴けばランドがテナーマンとしてだけでなく作曲のセンスがあったこともよくわかります。ランドはこの後コンテンポラリーに1枚、ジャズランドに2枚、ブルーノートに1枚のリーダー作を吹き込みますが、それらは皆廃盤扱いでCDでの入手は不可能です。幸い今の時代YouTubeで聴くことはできますが、いつか再発売してほしいですね・・・