ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジャズ・メッセンジャーズ/ハード・バップ

2024-04-18 21:21:52 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズを代表するグループであるジャズ・メッセンジャーズは今でこそアート・ブレイキーが率いたグループとして認識されていますが、実は当初はそうではありませんでした。1955年に吹き込まれた記念すべき彼らのデビュー作「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」、続くコロンビア盤「ニカズ・ドリーム」はアート・ブレイキーの名は冠しておらず、実態はブレイキーとホレス・シルヴァーの双頭コンボだったようです。実際、ブルーノートには「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」というアルバムも残されています。1956年になって、ブレイキーとシルヴァーは袂を分かつことになったのですが、その際ジャズ・メッセンジャーズの名称はブレイキーが引き継ぎ、シルヴァーの方は当時メンバーだったドナルド・バード、ハンク・モブレー、ダグ・ワトキンスをごっそり引き連れて行ったという経緯があるようです。平たく言うと、ブレイキーは"名"を取り、シルヴァーは”実”を取ったという形になります。

本作「ハード・バップ」はそんな新生ジャズ・メッセンジャーズの第1弾として1956年12月に吹き込まれた作品です。一新されたメンバーの顔ぶれはと言うと、フロントラインにビル・ハードマン(トランペット)とジャッキー・マクリーン(アルト)、リズムセクションがサム・ドッカリー(ピアノ)、スパンキー・デブレスト(ベース)、そしてブレイキーです。はっきり言って前作のバード、モブレー、シルヴァー、ワトキンスから比べると格落ち感は否めませんね。実際、ジャズ・メッセンジャーズはこの後多少メンバーを入れ替えて翌1957年までに計9枚のアルバムを発表しますが、どれも成功を収めたとは言い難く、多くのジャズファンからは”暗黒時代”と称されています。ジャズ・メッセンジャーズが黄金時代を迎えるのは1958年にリー・モーガン、ベニー・ゴルソン、ボビー・ティモンズを迎えてからのことです。ただ、個人的には本作含めこの頃のジャズ・メッセンジャーズの作品もそう捨てたものではないと思います。

アルバムはビル・ハードマンのエネルギッシュなオリジナル曲"Cranky Spanky"で始まります。ブレイキーのド迫力ドラミングに煽られるようにマクリーン、ハードマン、ドッカリーがハイテンションのソロをリレーして行きます。ずばり本作のベストトラックと言って良いでしょう。2曲目”Stella By Starlight”と3曲目”My Heart Stood Still”はどちらも有名スタンダード曲。本来はバラードですが、ここでは早いテンポで演奏されており、前者はスインギーに、後者はアップテンポで演奏されています。特に”My Heart Stood Still”の後半のブレイキーのドラミングが圧巻です。4曲目”Little Melonae”はマイルスやコルトレーンも取り上げたマクリーンのオリジナルですが、当時としてはかなり尖鋭的なメロディを持った曲で、後にフリージャズに転身するマクリーンの将来を予見させるような曲です。5曲目”Stanley’s Stiff Chickens"はハードマンとマクリーン共作の変わった名前の曲ですが、なかなか魅力的な旋律を持ったバップナンバーです。演奏面では「ジャッキーズ・パル」でも共演したマクリーンとハードマンが息の合ったコンビぶり。サム・ドッカリーはあまり耳にすることは多くないですが、特にクセのない正統派のピアノを聴かせてくれます。暗黒期ジャズ・メッセンジャーズについてはこれからもちょくちょく取り上げて行きたいと思います。

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