本日はクリフォード・ブラウンのパシフィック・ジャズ盤をご紹介します。パシフィック・ジャズと言えばチェット・ベイカー、ジェリー・マリガン、バド・シャンクらを擁し、当時全盛期だったウェストコーストジャズを牽引していたレーベルです。そこにブラウンの録音が残されているのは意外な気もしますが、収録当時(1954年7月)のブラウン&ローチ・クインテットはロサンゼルスを本拠地としていたので、ふらりとレコーディングに参加したのでしょう。名義上はブラウンがリーダーとなっていますが、実際にはアレンジャーを務めるジャック・モントローズ(よく似た名前ですがJ・R・モンテローズとは全くの別人です。念のため)が中心人物と思われます。メンバーはブラウンに加え、ズート・シムズ(テナー)、ボブ・ゴードン(バリトン)、ステュ・ウィリアムソン(トロンボーン)、ラス・フリーマン(ピアノ)、シェリー・マン(ドラム)、ベースは曲によってカーソン・スミスとジョー・モンドラゴンが交代します。ブラウン以外全員が白人で、演奏される音楽も典型的なウェストコースト・サウンドです。余談ですがボブ・ゴードンはこの録音の2週間後に自動車事故で死んだそうです。享年27歳。まるで翌年のブラウンの運命を予感させるようです。
さて、白人ばかりのウェストコースト・サウンドの中でブラウンがどういったプレイをするかが注目ですが、評価は正直微妙なところ。もちろんブラウンのトランペットの音色自体はいつもと変わらず素晴らしいです。ただ、ジャック・モントローズの編曲が微妙。せっかくブラウンとズート、シェリー・マンという稀代の名手達を揃えているのだから、彼らのアドリブに任せていれば良いものを、変に4管のアンサンブルとかアレンジにこだわるんですよね。ただ、それでもマニア的には楽しむポイントがいくつかあります。まず、ブラウンの代表的名曲である"Joy Spring"と"Daahoud"は解説書によると本作が初演だそうです。翌8月にかの名盤「クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ」に収録され、知名度も内容もそちらの方が上ですが、西海岸風の本作も悪くはないです。特に”Daahoud”はなかなかの熱演です。他では1曲目の”Tiny Capers”や6曲目”Bones For Jones”もブラウンの自作曲で、どちらも彼らしい明るくハッピーな楽曲です。3曲目モントローズ作の”Finders Keepers”もなかなか魅力的な旋律。ただ、スタンダード”Gone With The Wind”はストレートに演奏すれば良いのに、編曲に凝り過ぎて何だか変な曲になっています。7曲目”Bones For Zoot”はブラウンは関係なく、ズート・シムズのワンホーン・カルテット。明らかに関係のないセッションの曲で、なぜ本作に収録されているのかは謎ですが、演奏自体は良いです。