ジャズのジャケットには芸術的なものが多く、それだけで一つのアートと呼んでいいぐらいですが、一方で珍ジャケット、迷ジャケットにも事欠きません。吸血鬼ドラキュラがスティックを持ってドラムを叩く本作「ブルース・フォー・ドラキュラ」もその一つではないでしょうか?マイルス・デイヴィス・クインテットでも知られる名ドラマー、フィリー・ジョー・ジョーンズが1958年にリヴァーサイドに吹き込んだ作品で、メンバーもナット・アダレイ(コルネット)、ジョニー・グリフィン(テナー)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)と一流ジャズメンをズラリと揃えているのですが、一体どんな内容なのか思わず身構えてしまいますよね。
内容の方はいたって正統派ジャズ、と言いたいところですがそうとも言い切れません。1曲目”Blues For Dracula”は3管のリフをバックに、フィリー・ジョーがオオカミの遠吠えを真似た後でI'm Count Dracula. I'm a bebop vampireうんたらかんたらと2分半もしゃべり続けます。どうやらフィリー・ジョーはモノマネが得意で、特にドラキュラ役で有名なハンガリー出身の俳優ベラ・ルゴシが鉄板ネタだったらしいです。当時はウケたのでしょうが、現代の我々からすると元ネタを知らないのでキョトーンですよね。語りが終わった後は3管のファンキーなソロが繰り広げられ、ようやくジャズっぽくなりますが、最後は再びドラキュラ伯爵のセリフで終わります。変テコな曲ですね・・・
ただ、2曲目”Trick Street”以降はおふざけはなくストレートアヘッドなジャズが楽しめます。しかも普通より上質のハードバップと言って良いでしょう。何せナット・アダレイ、ジョニー・グリフィン、ジュリアン・プリ―スターの3管から成る豪華ホーンセクションにピアノが名手フラナガンですからね。とりわけ素晴らしいのが3曲目カル・マッセイ作の”Fiesta"。チャーリー・パーカーの演奏でも知られている曲で、タイトル通りラテンっぽい祝祭的な旋律の名曲・名演です。グリフィン、アダレイ、プリースター、フラナガンが順にソロを取った後、フィリー・ジョーも2分間近くに渡って圧巻のドラムソロを披露します。他ではバップスタンダードのマイルス・デイヴィス”Tune Up"やディジー・ガレスピー”Ow"も充実の出来。一通り聴けばハードバップ好きなら気に入ること間違いなしの作品です。