ジョー・ヘンダーソン、略してジョーヘンは1960年代以降のジャズを語る上では欠かせない人物です。本ブログではだいぶ前に晩年の作品である「ラッシュ・ライフ」を取り上げましたが、全盛期である60年代の作品を取り上げるのは初ですね。ジョーヘンと言えば「ページ・ワン」「インナー・アージ」「モード・フォー・ジョー」等ブルーノートのイメージが強いですが、本作「ザ・キッカー」は1967年8月録音のマイルストーン盤です。マイルストーンはリヴァーサイド・レコードの設立者であったオリン・キープニュースが同レーベルが1964年に倒産した後、前年の1966年に設立したレコード会社です。ジョーヘンは同レーベルの看板ミュージシャンの1人として10枚以上のリーダー作を残しており、本作はその最初の作品です。メンバーはマイク・ローレンス(トランペット)、グレイシャン・モンカー3世(トロンボーン)、ケニー・バロン(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)という布陣。このうちマイク・ローレンスについてはあまり聴いたことがないですが、ジョーヘンが発掘した白人トランぺッターのようです。当時24歳のケニー・バロンのピアノにも注目です。
全8曲ですが、60年代という時代を象徴するかのようにさまざまなスタイルのジャズが混在しています。まず目立つのはジョーヘンのブルーノート時代の自作曲"Mamacita""The Kicker""Mo' Joe"。いずれも彼がサイドメンとして参加した作品からの曲で”Mamacita”はケニー・ドーハム「トロンペタ・トッカータ」、"The Kicker"”Mo' Joe”はホレス・シルヴァー「ソング・フォー・マイ・ファーザー」と「ケイプ・ヴァーディアン・ブルース」からの選曲です。いずれもファンキーで耳馴染みの良い曲ばかりで、ジョーヘンが新興レーベルへの手土産代わりに自信作を再演したのでしょう。それ以外はモード~新主流派風の演奏がメインで、エリントン楽団の”Chelsea Bridge"、マイルス作でビル・エヴァンスが演奏した”Nardis"、スタンダードの”Without A Song”も60年代風のモーダルな解釈です。1曲だけ毛色が違うのがアントニオ・カルロス・ジョビン作の”O Amor Em Paz(平和な愛)"。当時流行していたボサノバで、この曲だけ2管抜きのワンホーンカルテットです。これがまた見事にハマっており、バロンのお洒落なピアノをバックにジョーヘンが気持ち良さそうにブロウしています。以上、モードジャズを中心にファンキージャズからボサノバまで60年代後半のジャズシーンを詰め込んだ魅力的な一品です。