本日はケニー・バレルのプレスティッジ初リーダー作をご紹介します。原題はシンプルに「ケニー・バレル」なのですが、それだけでは他の作品と区別がつかないので「ブルー・ムーズ」という邦題が付いたようです。かと言ってそういう名前の曲が収録されているわけではなく、おそらくですが後年の「ブルー・ライツ」「ミッドナイト・ブルー」と言ったバレルの代表作にあやかって付けたのではないかと思われます。録音年月日は1957年2月1日。前年にデトロイトからニューヨークにやって来て主にサイドメンとしてブルーノート、サヴォイ、プレスティッジの数々のセッションで腕を上げていた頃の作品です。メンバーはリズムセクションがトミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)。全員がデトロイト出身で、おそらくバレルとは旧知の間柄だったのでしょう。もう一人、バリトンサックスにセシル・ペインが加わっているのが面白い。なぜ、テナーやアルトではなく地味なバリトンを選んだのか一見すると不思議ですが、実は前年のサヴォイ盤「ジャズメン・デトロイト」もメンバーは違いますが同じ楽器構成なので、バレルにとっては馴染みのあるフォーマットだったのかもしれません。
全5曲、スタンダードからオリジナルまでバランス良く構成されています。1曲目”Don’t Cry Baby”はブルースの女帝ベッシー・スミスの曲。後にバレルの代名詞となるブルージーなギターがこの時点で完成されていることが良くわかります。2曲目”Drum Boogie”はスイング時代の名ドラマー、ジーン・クルーパのヒット曲。ここではセシル・ペインのバリトンが大活躍しますが、タイトルとは裏腹にドラムのエルヴィン・ジョーンズのソロはありません。3曲目”Strictly Confidential”はバド・パウエルの「ジャズ・ジャイアント」に収録されていた曲。フラナガンの軽快なソロの後、ペイン→バレルとソロをリレーして行きます。4曲目”All Of You”はコール・ポーターのスタンダード曲。マイルス・デイヴィスの名演が印象深いですが、ここではバラードからミディアムに変化する落ち着いた演奏。この曲はペインは参加していません。5曲目”Perception”はバレルのオリジナルで疾走感溢れるハードバップ。個人的には本作のベストトラックと思います。高速パッセージを次々と繰り出すバレルも見事ですが、中盤でトミー・フラナガンも目の覚めるようなピアノソロを披露してくれます。知名度はそんなに高くありませんが、バレルにハズレなしをあらためて実感させてくれる作品です。