ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ルイ・スミス/スミスヴィル

2024-03-24 18:00:15 | ジャズ(ハードバップ)

"幻"のトランぺッター、ルイ・スミスについては、少し前に「ヒア・カムズ・ルイ・スミス」で取り上げました。メンフィス出身で、50年代後半に2枚のリーダー作をブルーノートから発表し、忽然とシーンから姿を消しました。その後1970年代後半に復活して、たくさん作品を発表しているようなので実際は幻でも何でもないのですが、私のようにハードバップ・エラを中心にコレクションしている身からするとやはり謎の存在ですよね。経歴を調べてみるとスミスはテネシー州立大を卒業し、ミシガン大学の大学院に進学するなど当時の黒人では珍しい高学歴エリートだったらしいです。実際に引退後も音楽教師として安定した生活を送っていたようで、音楽で身を立てるしかない他のジャズマン達とは違ったのかもしれません。

もちろん、トランペットの腕前に関しては申し分ない実力の持ち主だったことは残された作品を聴けばわかります。本作「スミスヴィル」は1958年3月30日に吹き込まれたもので、サイドメンにはチャーリー・ラウズ(テナー)、ソニー・クラーク(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とさすがブルーノートと言うべき面々が名を連ねており、充実したハードバップを聴かせてくれます。

全5曲。うちスミスのオリジナル3曲、スタンダード2曲です。1曲目タイトル曲の”Smithville”は11分にも及ぶスローブルースで、スミスが南部出身らしい土臭いプレイを見せ、ラウズもソウルフルなテナーで盛り上げます。ソニー・クラークのピアノもいつになく粘っこいです。続く”Wetu”もスミス作となっていますが、ほぼ”Lover Come Back To Me”です。3曲目はスタンダードの”Embraceable You”をスミスがワンホーンでプレイしますが、出来はまあまあ。「ヒア・カムズ~」でも述べましたが、スミスはバラードがやや単調。何と言うか端正なプレイではあるのですが、リー・モーガンやドナルド・バードのような”華”がないんですよね。4曲目”There Will Never Be Another You”は有名スタンダード、ラストの”Later”はスミスのオリジナルで、どちらも疾走感溢れるハードバップです。スミスはこういう勢いのある曲の方が良いですね。特に”Later”が秀逸で、高らかに鳴るスミスのトランペットソロ、ブリブリと意外に野太いテナーを吹くラウズ、安定のクラーク、テイラーとソロをリレーしていきます。

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ルー・ドナルドソン/ウェイリング・ウィズ・ルー

2024-03-23 12:01:00 | ジャズ(ハードバップ)

ルー・ドナルドソンの代表作といえば、商業的成功という観点からはビルボードHOT100にもチャートインした1967年の「アリゲイター・ブーガルー」、名盤特集に良く取り上げられるのは1958年の「ブルース・ウォーク」あたりでしょうか?ただ、個人的にイチ押ししたいのが、今日取り上げる「ウェイリング・ウィズ・ルー」です。本作はドナルドソンの最高傑作というだけでなく、同時代のブルーノートの全作品群の中でもかなり上位にランクされるべき作品と思います。録音年月日は1957年1月27日。メンバーはドナルド・バード(トランペット)、ハーマン・フォスター(ピアノ)、ペック・モリソン(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。うち、フォスターとモリソンはドナルドソンのグループの常連としてその後も数々の作品で共演します。バードはこの頃飛ぶ鳥を落とす勢いであらゆるセッションに引っ張りだこの存在でしたが、本作ではいつにもましてキレキレの演奏で実質ドナルドソンと共同リーダーと言っても良いぐらいの存在感を見せつけます。

アルバムはエリントン・ナンバーの"Caravan"で幕を開けます。元々エキゾチックなこの曲を、テイラーが野性的なドラミングで盛り上げ、ドナルドソンとバードがファナティックなソロを繰り広げます。2曲目はスタンダードの"Old Folks"。ドナルドソンとバードが情感たっぷりのバラード演奏を聴かせますが、ブロックコードを多用したハーマン・フォスターの独特のバラード演奏も印象的です。3曲目"That Good Old Feeling"はチェット・ベイカーで有名な"That Old Feeling"のコード進行を少し変えたドナルドソンの自作曲。ハッピーな雰囲気に満ちたスインガーでバード、ドナルドソン、フォスターが気持ちよさそうにソロをリレーして行きます。

続いてレコードで言うB面。4曲目"Move It"もドナルドソンのオリジナルですが、この曲がまた素晴らしい。フォスター独特のローリング・ブロックコードがバックで煽り立てる疾走感溢れるナンバーで、バード、ドナルドソンが全編に渡ってスリリングなソロの応酬を繰り広げます。特にバードの輝きに満ちたトランペットソロが圧巻で、個人的には彼のキャリアの中でも最高のプレイではないかと思います。5曲目のスタンダード"There Is No Greater Love"はモダンジャズではミディアムテンポで演奏されていることが多いですが、ここでは原曲どおりバラードで演奏されており、ドナルドソンとバードがムードたっぷりに歌い上げます。ラストの"L.D. Blues"は名前通り、ドナルドソン自作のブルースで中盤のドナルドソンのファンキーなソロが圧倒的です。以上、珍しく全曲詳しく解説しましたが、6曲全て曲良し、演奏良しの文句なしの名盤です!

 

 

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カーティス・フラー/ボーン&バリ

2024-03-21 21:00:09 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズの最も基本的な組み合わせであるクインテット(2管+リズムセクション)にはさまざまな組み合わせがあります。最もメジャーなのはトランペット+サックスですが、サックス2本(テナー+アルト)も多いですし、トロンボーン+テナーまたはアルトという組み合わせも珍しくはないです。ただ、トロンボーンとバリトンサックスの組み合わせはかなり珍しい。私のコレクションで調べた限りは今日取り上げる「ボーン&バリ」以外には、ペッパー・アダムス&ジミー・ネッパーの「ペッパー=ネッパー・クインテット」があるのみでした。やはりスモールコンボで重低音楽器2本というのは華やかさに欠けるのでしょうか?ただ、本作はそんな地味な楽器2本で見事なハードバップ作品を作り上げています。

本作「ボーン&バリ」は1957年8月4日録音のカーティス・フラーでのブルーノートでの2枚目のリーダー作に当たります。フラーは6月に「ジ・オープナー」をブルーノートに吹き込んだ後、7月にはソニー・クラーク「ダイアル・S・フォー・ソニー」、前日の8月3日にはバド・パウエル「バド!」にサイドメンとして参加するなど、まさに破竹の快進撃を続けていたところです。そんなノリに乗っているフラーの相棒に選ばれたのはテイト・ヒューストン。正直あまり馴染みのない名前ですが、フラーと同じくデトロイト出身の黒人バリトン奏者です。1940年代からビッグバンドを中心にプレイしていたようですが、スモールコンボでの起用は稀です。ただ、実力は申し分なく、本作でもフラーを向こうに回して堂々たるプレイを聴かせてくれます。リズムセクションはソニー・クラーク(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。さすがブルーノートと言うべき、充実のラインナップです。

全6曲、うち4曲がフラーのオリジナルです。中では3曲目のタイトル曲”Bone & Bari"が素晴らしいです。重厚感たっぷりのテーマアンサンブルの後、ソニー・クラークが目の覚めるようなピアノソロを取り、続いてヒューストン、フラー、チェンバース、テイラーが軽快にソロをリレーして行きます。ラストの"Pickup"は急速調バップでフラーが超絶技巧で高速パッセージを吹き切ります。スタンダード2曲はどちらもワンホーンで、”Heart And Soul"はカーティス・フラーが、”Again"はテイト・ヒューストンがそれぞれたっぷりソロを取ります。特に”Again"はムードたっぷりのバラードで、ヒューストンのダンディズム溢れるバリトンソロに惚れ惚れとさせられます。

 

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ジョージ・ウォーリントン/ザ・ニューヨーク・シーン

2024-03-20 15:22:52 | ジャズ(ハードバップ)

今回はジョージ・ウォーリントンをご紹介します。本名はジャチント・フィーリャと言い、シチリア生まれのイタリア人ですが、幼少期にニューヨークに移住し、カウント・ベイシーを聴いてジャズの道を志すようになったそうです。1940年代に興隆したビバップにはわりと初期から参画しており、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーのバンドにも属していたとか。ただ、私はビバップには通暁していませんので、この頃の詳しいことはよくわかりません。モダンジャズにおいてウォーリントンが重要な役割を果たすのは1950年代半ば頃。1955年録音の「ライヴ・アット・カフェ・ボヘミア」はドナルド・バード、ジャッキー・マクリーン、ポール・チェンバース、アート・テイラーといった若き俊英を一堂に集めた”ハードバップの夜明け"的セッションとして名盤リストにも掲載されることが多いです。本作「ザ・ニューヨーク・シーン」はその2年後の1957年3月1日にプレスティッジに吹き込まれたものです。メンバーはトランペットは「カフェ・ボヘミア」と同じくドナルド・バードですが、他はフィル・ウッズ(アルト)、テディ・コティック(ベース)、ニック・スタビュラス(ドラム)となっています。バード以外はウォーリントン含め全員白人ですが、内容的には完全にハードバップです。

アルバムはモーズ・アリソンの自作曲"In Salah"で幕を開けます。アリソンは白人ピアニストでアル&ズートやスタン・ゲッツの作品にサイドメンとして参加していますが、作曲家としても知る人ぞ知る存在だったようで、この曲も熱きバップ魂を感じる名曲です。後はウッズとバードのオリジナルが3曲。中ではウッズ作"Sol's Ollie"が痛快ハードバップです。歌モノは2曲。ヴィクター・ハーバート作の"Indian Summer"はミディアムテンポで料理されており、リラックスした雰囲気の中、ウッズ、バード、ウォーリントン、コティックが軽快にソロを取って行ききます。"Graduation Day"はフォー・フレッシュメンが歌った美しいバラードですが、インストゥルメンタルでは他であまり聴いたことがありません。ここでは2管が抜けたトリオ編成で、ウォーリントンの端正なバラード演奏が味わえます。ただ、全体的にはウォーリントンのソロは控えめで、バードとウッズの2人を前面に押し出した音作りです。ウォーリントンとバード、ウッズの組み合わせは他にも何作かありますので、また近いうちにご紹介したいと思います。

 

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フレディ・ハバード/ゴーイン・アップ

2024-03-17 19:28:51 | ジャズ(ハードバップ)

60年代に入って、ジャズはそれまでのハードバップから多様性の時代を迎え、モード、新主流派、フリージャズ、そして70年代のフュージョンと様々なジャンルが誕生します。その全てで重要な役割を果たしたのが本日紹介するフレディ・ハバードです。ただ、そんなハバードもデビューした頃はハードバッパーでした。1938年生まれのハバードが故郷のインディアナからニューヨークに出てきたのが1958年。その2年後にブルーノートに初リーダー作「オープン・セサミ」を吹き込み、本作「ゴーイン・アップ」はその半年後の1960年11月6日録音ですが、そこでの演奏は基本的にハードバップです。メンバーもピアノのマッコイ・タイナーは新世代ですが、それ以外はハンク・モブレー(テナー)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)とハードバッパー達が名を連ねています。

アルバムはケニー・ドーハムの名曲''Asiatic Raes"で幕を開けます。有名な"Lotus Blossom"の異名同曲ですが、本家ドーハムのオリジナルに比べるとより力強くシャープな感じがします。モブレー作"The Changing Scene"、ハバード作'''Blues For Brenda''はいかにもブルーノートらしいマイナー調のバップ、モブレー作の''A Peck A Sec''もハバードのブリリアントなトランペットが炸裂する痛快ハードバップです。一方、ドーハム作"Karioka"や唯一のバラード''I Wished I Knew''(有名スタンダードの"I Wish I Knew"とは別曲)ではややモーダルな雰囲気を漂わせています。ハバードはこの次の「ハブ・キャップ」あたりからモード/新主流派路線を明確にして行きますが、本作はその過渡期の作品と言えるのではないでしょうか?

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