ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ルー・ドナルドソン/LD+3

2024-03-14 21:12:30 | ジャズ(ハードバップ)

本日はルー・ドナルドソンを取り上げたいと思います。ドナルドソンはブルーノートの看板アーティストの1人で特に60年代以降にオルガン奏者と組んだソウルジャズ路線で人気を博しました。本作は1959年2月18日録音の作品で、この頃はまだソウルジャズではなく正統派ハードバップ路線です。共演するのはザ・スリー・サウンズ。ジーン・ハリス(ピアノ)、アンドリュー・シンプキンス(ベース)、ビル・ダウディ(トリオ)の3人から成るトリオで、当時ブルーノートが猛プッシュしていた存在です。前年9月に「イントロデューシング・ザ・スリー・サウンズ」でブルーノート・デビューをした後、「ボトムズ・アップ!」を経て臨んだのが本作です。

ただ、実は私はそれらのスリー・サウンズ作品はそこまで好きではないのです。一般受けを狙ったのか"O Sole Mio"や"Besame Mucho"なんかが入ったりしていて、ちょっとベタな感じで深みに欠けるんですよね。個人的にはスリー・サウンズ、特にピアノのジーン・ハリスはトリオで演奏している時より、サイドに回った時の方が輝くような気がします。先日取り上げたナット・アダレイ「ブランチング・アウト」もそうですし、他にスタンリー・タレンタインの「ブルー・アワー」も良いです。リーダーである管楽器奏者を向こうに回して、まるで張り合うかのようにダイナミックなソロを取る。その構図がハマってるような気がします。

全7曲、うちオリジナルは2曲と少なめですが、このアルバムに関してはスタンダードが素晴らしいので問題なし。1曲目”Three Little Words”はドナルドソンが切れ味鋭いソロを取った後、ハリスが3分間にわたって怒涛のピアノソロを披露します。驚異の速弾きテクと溢れ出るソウルフィーリングは圧倒的の一言です。3曲目”Just Friends”も似たような感じで、中盤でハリスが輝きに満ちたソロを取った後、シンプキンス、ダウディもソロを取り、スリー・サウンズとしての存在感を見せつけます。オリジナルのバップナンバー”Jump Up"もドナルドソンに続き、今度はシンプキンスの長尺のベースソロ→躍動するハリスのピアノという展開です。さっきからスリー・サウンズばかり褒めてますが、リーダーのドナルドソンももちろん素晴らしいですよ。スピーディーな曲でも決して歌心を失わないメロディアスなアドリブは、さすがパーカーの後継者の一人と目されただけのことはあります。ラストの”Confirmation"では、パーカーの代表曲をスリー・サウンズをバックに伸び伸びと吹いています。以上、あまり名盤特集などに出てくることはない作品ですが、個人的には超おススメの1枚です。

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カーティス・フラー/ジ・オープナー

2024-03-13 21:21:49 | ジャズ(ハードバップ)

今回は先日UPの「ニュー・トロンボーン」に続きカーティス・フラーを取り上げます。1957年にデトロイトからニューヨークにやって来たフラーはトロンボーンのニュースターとしてあっという間にジャズシーンの寵児となりました。5月11日に上述「ニュー・トロンボーン」を吹き込んだ後、早くもブルーノート社長アルフレッド・ライオンの目に留まり、6月2日には「クリフ・ジョーダン」にサイドメンとして参加。そして2週間後の6月16日には初リーダー作である本作「ジ・オープナー」を吹き込みます。メンバーはハンク・モブレー(テナー)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。期待のニューフェイスをサポートすべく名手たちがレコーディングに集められました。

全6曲うち3曲が歌モノスタンダードで、特に1曲目"A Lovely Way To Spend An Evening(素敵な夜を)"と4曲目(レコードのB面1曲目)”Here’s To My Lady”はワンホーンによるバラード演奏。もっとガツンとしたハードバップで押してくるかと思ったら意外とゆったりした始まりで意表を突かれます。ここら辺のあまり強く自己主張しないというところが、フラーが他のジャズメンのセッションで重宝された要因の一つかもしれません。あえて硬派の曲を挙げるとすれば3曲目"Oscalypso"。オスカー・ペティフォード作のエキゾチックなナンバーで、重低音たっぷりのソロを聴かせてくれますす。2曲目”Hugore”と5曲目"Lizzy's Bounce"はフラーのオリジナルで、前者はブルース、後者は典型的なパップナンバーです。ラストはガーシュウィン作のスタンダード”Soon”。ミディアムテンポのスインギーな演奏に仕立て上げられており、モブレー→フラー→ティモンズ→チェンバースが軽快にソロをリレーしていきます。フラーはアドリブに不向きと言われていたトロンボーンで軽々とメロディアスなソロを紡ぎますが、技術的に相当高度なことをサラッとやっているあたりが凄いですね。

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オール・デイ・ロング

2024-03-12 21:09:41 | ジャズ(ハードバップ)

本日はプレスティッジ・オールスターズの作品をご紹介します。プレスティッジ・オールスターズと言っても特に実体があるわけではなく、同レーベルに所属するジャズメン達が作品ごとに集まってジャムセッション形式で録音を行うスタイルです。本作「オール・デイ・ロング」のメンバーはドナルド・バード(トランペット)、フランク・フォスター(テナー)、ケニー・バレル(ギター)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)から成るセクステットです。録音年月日は1957年1月4日。実はその1週間前の1956年12月28日にも「オール・ナイト・ロング」という作品が収録されており、本作はその続編のようなものです。バード、バレル、ワトキンス、テイラーは「オール・ナイト・ロング」セッションにも参加しており、マル・ウォルドロンの代わりにフラナガン、ハンク・モブレーの代わりにフォスターが加わったのが本作です。

ボーナストラック含めて全5曲。全てメンバーのオリジナルで、各自が自作曲を持ち寄ったと書けば聞こえが良いですか、実際は事前のリハーサルも特にせず、ほぼ即興のような形でブルースやバップを演奏したというのが実態でしょう(本作に限らずプレスティッジ・オールスターズの作品は大体そうです)。なので、これぞ名曲!というようなものは正直ありません。ただ、若き日のバード、フォスター、バレル、フラナガンらのプレイが存分に聴けるとあってはハードバップ好きならスルーするわけにはいきません。とりわけ、普段はカウント・ベイシー楽団で短いソロしか取らないフォスターのソロをじっくり堪能できるのは嬉しい限りです。

1曲目はタイトル曲であるバレル作のスローブルース"All Day Long"。18分を超える長尺だけあて、各自のソロをたっぷり味わえますが、さすがに長過ぎかも。2曲目”Slim Jim”と3曲目”Say Listen”はバード作の典型的バップ・ナンバー。前者はチャーリー・パーカーの”Barbados”によく似ています。4曲目”A.T.”と5曲目”C.P.W.”はフォスター作。”A.T.”はもちろんアート・テイラーの頭文字で、文字通りテイラーのドラムが大活躍します。C.P.W.は何の頭文字かわかりません。なお、翌1958年には「オール・モーニン・ロング」という作品もプレスティッジから発表されますが、そちらはレッド・ガーランドがリーダーでコルトレーンとドナルド・バードが参加しています。そちらについてはまた機会があればご紹介します。

 

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ジョン・コルトレーン/コルトレーン・サウンド

2024-03-11 21:12:59 | ジャズ(モード~新主流派)

1959年にプレスティッジからアトランティック・レコードに移籍したジョン・コルトレーンはジャズ史上に残る名盤「ジャイアント・ステップス」を発表。モードジャズの時代を新たに切り拓いたとされています。ただ、実際はそう単純なものではなく、以前ご紹介した「コルトレーン・ジャズ」はウィントン・ケリー・トリオをバックに従えたハードバップ・スタイルの演奏です。コルトレーンのサウンドを決定的に変えたのは、やはりマッコイ・タイナーとの出会いでしょう。1960年10月、コルトレーンはフィラデルフィアからニューヨークにやってきたばかりのタイナー(当時21歳)、スティーヴ・デイヴィス(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)をメンバーに迎え、かの歴史的名盤「マイ・フェイヴァリット・シングス」を生み出します。本作「コルトレーン・サウンド」はその一連のセッションから未収録曲を後に編集し、1964年に発売されたものです。

従来の演奏との違いは冒頭"The Night Has A Thousand Eyes(夜は千の目を持つ)"を聴いただけで明らかです。ジェリー・ブレイニンという作曲家が書いたこのスタンダード曲。ホレス・シルヴァー「シルヴァーズ・ブルー」のバージョンも素晴らしいですが、ここでは明らかにハードバップとは違うアプローチがなされています。天空を飛翔するようなタイナーのピアノ、アグレッシブなジョーンズのドラム、そして全てから解き放たれたように自由なアドリブを繰り広げるコルトレーン。まさに唯一無二のコルトレーン・ワールドがそこに広がります。4曲目”Body And Soul”も数多のジャズメンによって演奏されてきましたが、ここでは完全にモード風のアプローチです。

自作曲も素晴らしいです。2曲目”Central Park West”は後にスタンダード曲となった名バラード(個人的には大坂昌彦・原朋直クインテットの演奏がおススメです)。ここではコルトレーンはソプラノサックスを使用し、セントラル・パークの冬の夕暮れを思い起こさせるようなメランコリックで美しい旋律を歌い上げます。5曲目"Equinox"もスピリチュアルな雰囲気に満たされたスローブルース。3曲目”Liberia”と6曲目”Satellite”では後のフリー時代を予感させるようなアグレッシブなアプローチも見られます。本作は上述のように「マイ・フェイヴァリット・シングス」に漏れた曲の寄せ集めですが、そんなことが信じられないぐらいの充実の内容で、全盛期のコルトレーン・カルテットのクオリティの高さを証明する一枚です。

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アート・ファーマー/ファーマーズ・マーケット

2024-03-08 21:08:22 | ジャズ(ハードバップ)

本日はアート・ファーマーのプレスティッジ盤をご紹介します。ファーマーについては本ブログでも何度か紹介しましたが、1960年代以降はフリューゲルホルンを主楽器として、どちらかというとソフトなジャズ路線で人気を博しました(「インターアクション」参照)。ただ、1950年代半ば頃のファーマーのスタイルはあくまでハードバップで、バリバリトランペットを吹いていました。1956年11月23日録音の本作「ファーマーズ・マーケット」はこの頃のファーマーの代表作の一つです。メンバーはハンク・モブレー(テナー)、ケニー・ドリュー(ピアノ)、双子の弟アディソン・ファーマー(ベース)、そしてエルヴィン・ジョーンズ(ドラム)です。

全6曲。1曲だけアーサー・シュワルツの”By Myself”はスタンダードですが、後はジャズ・オリジナルです。1曲目”With Prestige”と2曲目”Ad-dis-un”はドリュー作で出来はまあまあといったところ。3曲目のタイトル曲”Farmer’s Market”はファーマーがワーデル・グレイのバンドにいた時に書いた曲で、「ワーデル・グレイ・メモリアルVol.2」にも収録されていますが、本作の方がより素晴らしい出来です。冒頭のテーマ演奏の後、ドリューが目の覚めるようなピアノソロを2分近くに渡って披露し、続いてファーマー→モブレーがドライブ感たっぷりのソロを繰り広げます。4曲目”Reminiscing”はジジ・グライス作のバラード。モブレーが抜けたワンホーン演奏ですが、ここでのファーマーのバラード演奏も見事です。後年のようなくすんだ音色ではなく、力強く情熱的に歌い上げています。5曲目”By Myself”はファーマーがカップミュートでマイナー調のバラードを哀愁たっぷりに演奏しますが、個人的にはイマイチ。ラストの”Wailin’ With Hank”はタイトル通りモブレー作の典型的ハードバップで、モブレー→ファーマー→ドリューが快調にソロを取ります。なお、特にこの曲では前年デトロイトからニューヨークにやってきたばかりのエルヴィン・ジョーンズが圧倒的なドラミングを披露しており、後年の飛躍を予感させます。

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