ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マル・ウォルドロン/マルー1

2024-03-07 21:23:56 | ジャズ(ハードバップ)

プレスティッジはブルーノート、リヴァーサイドと並んでハードバップを代表するレコード会社ですが、同レーベルの最重要人物は今日ご紹介するマル・ウォルドロンだと私は思います。もちろん、プレスティッジにはマイルス、ロリンズ、コルトレーンはじめ数々のジャイアント達が在籍しましたが、彼らは途中で他のレーベルに移籍しています。一方マルは50年代はほぼプレスティッジ専属で、リーダー、サイドメン合わせてとなんと50近くのセッションに顔を出しています。当時たくさん録音されたプレスティッジ・オールスターズ名義のジャムセッションも、マルが中心的な役割を果たしているものが多いです。本作「マルー1」はそんな彼の初のリーダー作です。録音年月日は1956年11月9日。2管を加えたクインテット編成で、メンバーはイドリース・スリーマン(トランペット)、ジジ・グライス(アルト)、ジュリアン・ユーエル(ベース)、アーサー・エッジヒル(ドラム)です

全6曲。ジェローム・カーンの”Yesterdays”を除いてジャズ・オリジナル中心です。1曲目はベニー・ゴルソン作”Stablemates”で、これは正直まずまずの出来。2曲目"Yesterdays"はライナーノーツで評論家は絶賛していますが、私は暗すぎて好きじゃないです。私はジャズを聴き始めて20年以上経ちますが、こういうわび・さび系の曲の良さは未だに分かりません。私のおススメは同じマイナー調でも5曲目”Dee’s Dilemma"です。2管のユニゾンが奏でるメランコリックなテーマが印象的なマル作の名曲です。3曲目”Transfiguration”はジジ・グライス作となっていますが、スタンダードの”Gone With The Wind”、4曲目マル作”Bud Study”はおそらくバド・パウエルの”Parisian Thoroughfare”を下敷きにしたハードバップ、ラストの”Shome”はスリーマン作のブルースです。マルはもちろん随所でピアノソロを披露しますが、どちらかと言うと2管を前面に出し、クインテットとしての一体感を意識した音作りです。スリーマンの高らかに鳴るトランペット、パーカー直系のアルトを聴かせるグライスが聴きモノです。

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ケニー・バレル&ジャック・マクダフ/クラッシュ!

2024-03-06 21:12:37 | ジャズ(ソウルジャズ)

本日はケニー・バレルをご紹介します。バレルについては以前「ブルージン・アラウンド」をご紹介しましたが、私にとってナンバーワン・ジャズ・ギタリストです。バレルはとにかく多作なことで知られており、ブルーノートやプレスティッジを中心に数々のセッションに参加し、ハードパップの屋台骨を支えました。一方、バレルはいわゆるソウルジャズとも親和性が高く、ジミー・スミス、フレディ・ローチ等オルガン奏者との共演も多くあります。本作「クラッシュ!」はプレスティッジを代表するオルガン奏者、ブラザー・ジャックことジャック・マクダフとの共演作です。録音年月は1963年1月8日と2月26日。メンバーはバレル、マクダフに加え、ハロルド・ヴィック(テナー)、ジョー・デュークス(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)です。

内容ですが、1曲目”Grease Monkey”はダンスフロア向けのソウル・ジャズで、さすがにポップ過ぎますね。2曲目のスタンダード”The Breeze And I”も軽めの演奏。3曲目が本作のハイライトであるホレス・シルヴァー作”Nica’s Dream”。レイ・バレトの野生的なコンガに煽られるように、マクダフ→バレル→ヴィックが熱のこもったソロをリレーしていきます。4曲目”Call It Stormy Monday"はコテコテのブルースで、マクダフの糸を引くようなオルガンソロの後、バレルが十八番のブルージーなソロを聴かせます。5曲目はガーシュウィン・ナンバーの”Love Walked In”。この曲だけカウント・ベイシー楽団のフルート奏者エリック・ディクソンが参加しており、曲調もスインギーです。ラストの”We’ll Be Together Again"はほぼマクダフとバレルのデュオでスローバラードをムードたっぷりに演奏します。以上、決して名盤とは言えませんが、気軽に楽しめる一枚だと思います。

 

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ナット・アダレイ/ブランチング・アウト

2024-03-05 21:13:55 | ジャズ(ハードバップ)

本日はナット・アダレイを取り上げます。皆さんご承知のとおりナットはジャズ界きってのスター、キャノンボール・アダレイの弟であり、長年にわたって彼のグループにも在籍していたためつい兄の陰に隠れがちですが、一方で自身のリーダー作もたくさんあり、ピンで主役を張れる実力の持ち主でした。少なくともコルネット奏者としては当代随一のプレイヤーだったと言ってよいでしょう。本作「ブランチング・アウト」はそんなナットがリヴァーサイドに残した7枚のリーダー作のうち最初の1枚です。録音は1958年9月です。メンバーはジョニー・グリフィン(テナー)、ジーン・ハリス(ピアノ)、アンディ・シンプキンス(ベース)、ビル・ダウディ(ドラム)です。お気づきの方もいるかもしれませんが、リズムセクションはブルーノートの看板トリオであるザ・スリー・サウンズです。彼らがブルーノートにデビュー作「イントロデューシング・ザ・スリー・サウンズ」を録音したのが同じ1958年9月。この頃はまだブルーノートと専属契約を交わしていなかったのかもしれません。

アルバムはナット・アダレイらしくファンキーな演奏が中心。セロニアス・モンクの”Well, You Needn’t”や自作のタイトルチューン"Branching Out"がその代表で、トランペットより小ぶりなコルネットを壊れんばかりの勢いで演奏するナット、トレードマークのビッグトーンでそれに対抗するグリフィン、そしてジーン・ハリスも鍵盤の上を跳ね回るようなダイナミックなピアノソロで彩りを添えます。ハリスは全編にわたって絶好調で、ファンキーかつゴージャスなピアノソロは演奏のレベルを一段階引き上げています。個人的には小さくまとまった感のあるスリー・サウンズよりも本作のでのプレーの方が好みですね。ラストの”Warm Blue Stream”だけがバラードですが、これがまたしみじみとしたとてもいい曲です。素朴なナットのコルネットと艶やかなグリフィンのテナーで、最後は余韻を残すようなエンディングを迎えます。

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カーティス・フラー/ニュー・トロンボーン

2024-03-04 20:52:32 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズにおいて、トロンボーンは常に脇役的な存在でした。ビッグバンドでは欠かせない楽器にもかかわらず、スモールコンボ主体のビバップではトランペットやサックスに比べ高速アドリブに適していないというのがネックになったのでしょう。そんな中、唯一スタープレイヤーと呼べる存在がJ・J・ ジョンソンで、ビバップ隆盛以降10年以上にわたって彼の1強状態でした。そこに殴り込みをかけたのがデトロイト出身のカーティス・フラー。1957年にニューヨークにやってきたフラーは瞬く間にハードバップ・シーンの寵児となり、多くのセッションに引っ張りだこになりました。今日ご紹介する「ニュー・トロンボーン」はそんなフラーが1957年5月にプレスティッジに残した記念すべき初リーダー作です。50年代のフラーと言えば、ブルーノートあるいはサヴォイを思い浮かべますが、初リーダー作がプレスティッジなのは少し意外です。

このアルバム、まずジャケットがいいですね。楽器のケースを片手に田舎の駅のプラットホームで列車を待つフラー。「おら、ニューヨークで一旗揚げるだ」とでもキャッチコピーを付けたくなるような一枚です。メンバーも面白いですよ。リーダーのフラーをはじめ、ソニー・レッド(アルト)、ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、タグ・ワトキンス(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)と全員デトロイト出身です。「ジャズメン・デトロイト」で述べたように当時のニューヨークにはデトロイト出身のジャズメンがたくさんいましたが、それにしても偶然とは思えない顔ぶれです。おそらくニューヨークに出てきたばかりの若者フラー(当時25歳)を同郷の先輩たちがサポートしてあげたのでしょう。

前半3曲"Vonce #5""Transporation Blues""Blue Lawson"はフラーのオリジナル。これぞ名曲!と特筆すべきような曲はありませんが、全体的によくまとまったハードバップです。フラーはリーダーだからと言ってことさら自己主張するわけでもなく、滑らかなトーンであくまでクインテットの一員として演奏しています。ややジャッキー・マクリーンに似た感じのソニー・レッドのアルト、ベテランならではの落ち着きで演奏に安定感をもたらすハンク・ジョーンズのピアノも光っています。後半は一転してバラードが多く、ジーン・デポール作曲のスタンダード”Namely You”、自作曲の”Alicia”でフラーの暖かみのあるバラードプレイを味わうことができます。本作を皮切りにフラーは1957年だけでブルーノートから3枚のリーダー作、その他でもコルトレーンの伝説の「ブルー・トレイン」に参加するなどまさに破竹の快進撃を告げます。そんなフラーの記念すべき第一歩を記した作品です。

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ケニー・ドリュー/ジス・イズ・ニュー

2024-03-02 20:53:42 | ジャズ(ハードバップ)

ケニー・ドリューについては以前「ダーク・ビューティー」でご紹介しましたが、1960年代にデンマークに移住し、70年代から80年代にかけて多くのリーダー作を発表しました。50年代のドリューはむしろサイドメンとしての活動がメインでしたが、その中でもリーダー作はいくつかあり、本作「ジス・イズ・ニュー」もそのうちの一つです。本作の特徴はピアノトリオではなくドナルド・バード(トランペット)とハンク・モブレー(テナー)をフロントラインに迎えていることで、他のリヴァーサイド作品「ケニー・ドリュー・トリオ」「パル・ジョーイ」とは違った趣があります。ちなみに他のメンバーはウィルバー・ウェア(ベース)、G・T・ホーガン(ドラム)です。

セッションは2つに分かれており、1曲目~3曲目が1957年3月28日録音で2管のクインテット編成、同4月4日録音の4曲目~7曲目がモブレーが抜けたワンホーン・カルテット編成です。全編を通じてドナルド・バードのトランペットが大活躍しており、予備知識なしに聴くと彼のリーダー作と勘違いしても不思議ではありません。中でも5曲目のバードの自作曲"Little T” は彼のショウケースと言っても良いナンバーで、バードの溌溂としたトランペットが存分に味わえます。その他では冒頭のタイトル曲”This Is New”も素晴らしいです。「三文オペラ」で有名なクルト・ヴァイルの作品で、「闇の女(Lady In The Dark)」と言うミュージカルで使われていた楽曲だそうです。ジャズで演奏される機会はあまり多くはないですが、他ではチック・コリア「トーンズ・フォー・ジョーンズ・ボーンズ」のバージョンも良いので聴き比べて見るのもよいでしょう。ここではモブレーも加わったクインテットで原曲の持つドラマチックな旋律を活かした見事な演奏に仕上げています。2曲目ドリュー作のメランコリックなバラード”Carol”、スタンダードをハードドライビングに仕上げた3曲目”It’s You Or No One"も捨て難い出来です。以上、ドリューのピアノを期待して聴くと少し肩透かしを食らうかもしれませんが、バードやモブレーも含めたハードバップセッションとして十分楽しめる作品です。

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