■「ミルク/Milk」(2008年・アメリカ)
監督=ガス・ヴァン・サント
主演=ショーン・ペン エミール・ハーシュ ジョシュ・ブローリン ジェームズ・フランコ
自らゲイであることを明かして、ゲイやマイノリティの地位向上の為に活動したハーヴェイ・ミルク氏。以前に地元の映画館でレイトショーで上映されたドキュメンタリー映画(残念ながら観られなかったが)でその存在は知っていた。本作は、そのミルク氏をショーン・ペンが演じた伝記映画である。
言われなき差別を受け続けているマイノリティを救おうとするハーヴェイの勇気と行動には感動する。彼の人柄や周囲の人々に支えられたこともあるけれど、その前向きな行動はやはり人とは違う。落選した選挙であるにもかかわらず、事務所には殺伐とした空気はない。損得勘定ではない人間的なつながりがそこにあるからなのか。「40歳になるのに人に誇れることを何もしていない。」そしてみんなの為に出馬を決意する。自分にこういう行動はとれるだろうか。
彼の政治活動を快く思わない人々がいる。人には価値観がさまざまあることはもちろんだが、ハーヴェイに異を唱える人々は残念なことに偏見に満ちた人々だった。ハーヴェイは結局、私的な恨みから射殺されてしまうのだが、その裏側にそうした社会的な偏見があったことも無視はできない。射殺した同僚議員ダン・ホワイトはわずかな実刑で社会復帰することになるのが、その証拠ともいえる。この映画で我々が知ることは、何よりもハーヴェイ・ミルクという人物。
「希望がなければ人生は生きる価値などない。だから、希望を与えなければ。」
という彼の台詞は心に響いた。多様な価値観をもつアメリカ社会の現実、そして人間はいかに不寛容な生き物であるか、を僕らはこの映画で思い知る。そうしたことを考える時間を得たことが何よりも収穫なのかもしれない。
ショーン・ペンはいつもよりもやや声を高めに発し、”しな”をつくるような動作で役になりきっている。この人の演技こそが本当にいい仕事だ。この映画でオスカーを獲得したが、それも納得。ガス・ヴァン・サント監督がゲイの映画というと「マイ・プライベート・アイダホ」がある。男娼という役柄でゲイが扱われるだけだし、リバー・フェニックスが美しかった。本作は・・・駅でいきなり「誕生日を一人にさせないでくれ」と言ってナンパしたり(しかも濃厚なキス!)、男性二人が絡み合う場面が続くのは、わかっちゃいるけどちょっと生々しく感じられて・・・。