■「NINE/NINE」(2009年・アメリカ)
監督=ロブ・マーシャル
主演=ダニエル・ディ・ルイス マリオン・コティヤール ペネロペ・クルス ソフィア・ローレン
フェデリコ・フェリーニ監督の名作「81/2」がブロードウェイミュージカル化され、それをロブ・マーシャル監督が映画化。この映画に何を期待するかによって評価も分かれてくるようにも思える。僕は正直なところフェリーニの香りを期待していた。だけどそこはハリウッド製ミュージカル映画だし、絢爛豪華な音楽絵巻になっている。それに、アンソニー・ミンゲラの脚本が主人公グイドの”愛の彷徨”めいた筋書きに徹していて、意外にしっとりとした人間ドラマとして作られていることにやや驚いた。マルチェロ・マストロヤンニのおどおどした感じが面白かった「81/2」に対して、ダニエル・ディ・ルイスはちょっと神経質なイメージすら感じられる。舞台ではラウル・ジュリアやアントニオ・バンデラスがグイドを演じたそうで、それこそ男臭い色気をかもしだすことだろう。でもダニエル・ディ・ルイスになった分だけ、気が弱い男の大胆な行動というのがうまく表現できたようにも思える。
ともかく豪華な配役。映画の冒頭、女優陣が次々と登場する場面はうっとり・・・その一方で妬ける。マジで妬ける(笑)。遺跡が美しいローマの町並みを背景に、アルファロメオのオープンカー走らせる主人公。かっこよくてまた妬ける。そしてそこから始まる女性との関係・・・、この映画が"男の願望映画"と女性映画ファンからは皮肉られそうな気がする。または「だからイタリア男はわかんない!」と呆れられそう。でもこれは、気弱な男が柄に合わない大胆な行動をとって、再出発をはかろうとする物語。男って生き物は、同じコミュニティに所属することで男同士のつながりを維持するようなところがどうしてもある。共通の話題がないとダメなのね。だから仕事以外のプライベートな話まで腹を割って話せる相手って意外と少ない人もいる。僕もけっこうそれを感じている人間の一人で、異性の友達の方が素直に話ができたりすることもある。だから、主人公グイドが結局女性に支えられてづけているのは、妬みながらも(笑)理解できる気がした。そこを暖かい目で見守ってやってよ・・・とちょっとだけ思いましたが。
女優の皆様、出番はそれぞれ少なめだったけど強烈なインパクトがありましたね。少年期のグイドに性を目覚めさせた存在であるファーギーのむっちりとしたところは、まさにフェリーニ好みの女性像代表として体重を増やして熱演。再び助演賞にノミネートされたペネロペ・クルスは、かわいい女を演じきっていた。下着姿で踊るミュージカルシーンは、ごめんなさいクギづけでした(汗)。映画館の前の席で"かぶりつき"で観ることをおすすめします。一緒に観た友達は「女の私でもさわりたいと思ったもん」と一言。妻役マリオン・コティヤールはひたすら耐える女で僕は適任だったと思った。ジュディ・デンチの貫禄。あんな女友達いたら頼れそうですよねぇ・・・。ソフィア・ローレン、ニコール・キッドマンも素晴らしかった。でも圧倒されたのはケイト・ハドソン!。"Cinema Italiano"を歌い踊る場面は圧巻!10年前に「あの頃ペニーレインと」でバックステージの女神だった彼女が、ステージの上で光り輝いてる!。
グイドが再び映画製作を始めるラストシーン。これまでの登場人物が一堂に集まって彼を見守る場面。人は支えられていることを視覚的に表現。それを密かに見守るマリオン・コティヤール。意外なほどしっとりと終わる。僕はやっぱり「81/2」を期待していたので、えっ?エンディングはド派手にサーカスみたいな楽しさで終わらないの?と思いました。ニーノ・ロータ作曲の派手なスコアぽいのが出てくるのはファーギーの"Be Italian"くらいだったよな。でも音楽を十二分に楽しめる映画でした。