チケットが高額なだけに、日頃演劇を観ることはなかなかない。しかし、村上春樹の「海辺のカフカ」を蜷川幸雄が演出、宮沢りえと藤木直人が出演、しかも地元の大劇場での公演・・・ときたら、もう行くしかないでしょ。生で有名人が出演する舞台を観るのは初めて。改めて原作を読み直してストーリーの記憶を呼び戻して、いざ当日。

はぁー。
いい脚本(ほん)といい役者といい演出。僕にとっては至福の時間だった。
ハードカバー上下巻の原作の中で、主人公田村カフカくんの成長物語的な部分を切り取った脚本。舞台での表現が困難な部分(例えばクライマックスに登場する軟体動物系のクリーチャー)を排除して、ストーリー上反復になりそうな部分(高知県の山小屋に行くエピソード)を簡略化することになったが、その分だけ原作の核心部分を味わうことができている。その一方でジョニー・ウォーカーの猫殺しの場面は原作に忠実でショッキングな描写、演出が冴えまくって、ナカタさんだけでなく、観客も精神的に追い詰められるかのようだ。
原作で僕が感じていた主人公田村カフカくんのイメージは、年齢のわりに強きで自信たっぷりな男の子。漱石や哲学を語り倒したり、佐伯さんに大人びた言葉で会話できたり、どうトレーニングすれば筋肉は鍛えられるのかを熟知していたり、とても世間一般の15歳の少年とは思えない。困っている状況をそれでもなんとかしちゃう強さがあった。だって「世界でいちばんタフな15歳」だもの。しかし、舞台のカフカ少年は、極度の人間嫌いと感じられる、自信のなさそうな少年に思える。図書館で大島さんと本について語るところでも饒舌に持論を語ることもなく、思い悩んでいる場面ばかりが印象に残る。ただ、成長物語として「海辺のカフカ」を見たならば、不思議な経験をして次第に"タフな15歳になっていく"舞台のカフカ少年はふさわしいのかもしれない。新人の古畑新之は、時に感情を無理に抑えたようなカフカ少年の長い台詞もこなし、大健闘だと思う。
それにしても目を引くのはセット。黒子が押して次々と舞台に現れるのは、台車が取り付けられたショウケースのようなセット。図書館、佐伯さんの執務室、ジョニー・ウォーカーの書斎、サービスエリア、神社の境内、森の中、ラブホテルが次々に現れ、その間を役者たちが別世界に迷い込んだように現れる。15歳の佐伯さんを演ずる宮沢りえは、まさにショウケースの中に入って現れて強い印象を残す。その台車セットが交差する演出は、観客席の僕らも異世界に連れ込まれたような気持にさせてくれる。ラストで佐伯さんとの別れの場面。セットに乗った宮沢りえが視界から遠ざかっていく演出は素晴らしかった。実はいちばん大変だったのは、セットを移動させる黒子さんたちだったのではないだろうか。きっと舞台稽古でも蜷川氏からも厳しい指示が飛んでいたのに違いない。
有名人が演ずる舞台を観たのは実は初めて。映画ファンである僕は、銀幕という二次元(笑)に恋し続けているだけに、リアルで観る役者さんたちの迫力に圧倒された。宮沢りえはアイドル時代から好きだけど、今回演じた佐伯さんは50歳という設定。終始見せる堅い表情と、細身のスーツ姿、落ち着いているけれど強い舞台調のしゃべり。それだけにカーテンコールで見せた笑顔がたまらなく素敵だった。藤木直人は中性的な役柄で、首までボタンをとめたシャツに細身のパンツ。普段の僕ならきっと思わないのだが、それが妙にかっこよく見える。こういう役者を生で観られることに感激。また舞台を観たい、という気持ちにさせてくれた時間でした。

はぁー。
いい脚本(ほん)といい役者といい演出。僕にとっては至福の時間だった。
ハードカバー上下巻の原作の中で、主人公田村カフカくんの成長物語的な部分を切り取った脚本。舞台での表現が困難な部分(例えばクライマックスに登場する軟体動物系のクリーチャー)を排除して、ストーリー上反復になりそうな部分(高知県の山小屋に行くエピソード)を簡略化することになったが、その分だけ原作の核心部分を味わうことができている。その一方でジョニー・ウォーカーの猫殺しの場面は原作に忠実でショッキングな描写、演出が冴えまくって、ナカタさんだけでなく、観客も精神的に追い詰められるかのようだ。
原作で僕が感じていた主人公田村カフカくんのイメージは、年齢のわりに強きで自信たっぷりな男の子。漱石や哲学を語り倒したり、佐伯さんに大人びた言葉で会話できたり、どうトレーニングすれば筋肉は鍛えられるのかを熟知していたり、とても世間一般の15歳の少年とは思えない。困っている状況をそれでもなんとかしちゃう強さがあった。だって「世界でいちばんタフな15歳」だもの。しかし、舞台のカフカ少年は、極度の人間嫌いと感じられる、自信のなさそうな少年に思える。図書館で大島さんと本について語るところでも饒舌に持論を語ることもなく、思い悩んでいる場面ばかりが印象に残る。ただ、成長物語として「海辺のカフカ」を見たならば、不思議な経験をして次第に"タフな15歳になっていく"舞台のカフカ少年はふさわしいのかもしれない。新人の古畑新之は、時に感情を無理に抑えたようなカフカ少年の長い台詞もこなし、大健闘だと思う。
それにしても目を引くのはセット。黒子が押して次々と舞台に現れるのは、台車が取り付けられたショウケースのようなセット。図書館、佐伯さんの執務室、ジョニー・ウォーカーの書斎、サービスエリア、神社の境内、森の中、ラブホテルが次々に現れ、その間を役者たちが別世界に迷い込んだように現れる。15歳の佐伯さんを演ずる宮沢りえは、まさにショウケースの中に入って現れて強い印象を残す。その台車セットが交差する演出は、観客席の僕らも異世界に連れ込まれたような気持にさせてくれる。ラストで佐伯さんとの別れの場面。セットに乗った宮沢りえが視界から遠ざかっていく演出は素晴らしかった。実はいちばん大変だったのは、セットを移動させる黒子さんたちだったのではないだろうか。きっと舞台稽古でも蜷川氏からも厳しい指示が飛んでいたのに違いない。
有名人が演ずる舞台を観たのは実は初めて。映画ファンである僕は、銀幕という二次元(笑)に恋し続けているだけに、リアルで観る役者さんたちの迫力に圧倒された。宮沢りえはアイドル時代から好きだけど、今回演じた佐伯さんは50歳という設定。終始見せる堅い表情と、細身のスーツ姿、落ち着いているけれど強い舞台調のしゃべり。それだけにカーテンコールで見せた笑顔がたまらなく素敵だった。藤木直人は中性的な役柄で、首までボタンをとめたシャツに細身のパンツ。普段の僕ならきっと思わないのだが、それが妙にかっこよく見える。こういう役者を生で観られることに感激。また舞台を観たい、という気持ちにさせてくれた時間でした。