Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

重力ピエロ

2014-07-01 | 映画(さ行)

■「重力ピエロ」(2009年・日本)

監督=森淳一
主演=加瀬亮 岡田将生 小日向文世 鈴木京香 渡部篤郎

 伊坂幸太郎の映画化はなかなか難しいのだろうか。僕も多くを観ている訳ではないし、多くを読んでいる訳ではないのだが、小説の評価は高いのに映像化してしまった途端に「なんか違う」と言われるのをよく聞く。しかし、それは小説として人気作故だ。特に伊坂作品は、読んでいて脳内でイメージがものすごく膨らんでくる。「重力ピエロ」は僕も読んだが、冒頭の「春が降ってきた。」から、放火現場近くに残された壁のグラフィティアート、亡き母親と父親の出会う雪道まで、僕らは妄想に近いイメージを膨らませる。伊坂幸太郎の文章は、簡潔な言葉で妄想をかき立ててくれる。「オーデュポンの祈り」では舞台となった場所を僕らは頭の中で形作ったし、「ゴールデンスランバー」ではビートルズのあの曲を口ずさむ主人公たちを思い浮かべた。しかし、文章はじっくりそれを味わう余裕を与えず、テンポよく物語は綴られていく。読み進めることは、活字の上を転げ回るような快感。これはエンターテイメントだ。

 人気作の映画作品は難しい。映像化された作品が読者が抱いた妄想通りである期待と、それを超える期待がある。しかも過剰に。しかも「重力ピエロ」は母親の死という出来事を背景にした、父と息子二人の物語。出生の秘密と連続放火事件が絡んでいく展開は引きつけられるのだけれど、小説とは印象が大きく異なる。もちろん解釈の違いもあるだろうし、原作通りの映画脚本なんて面白くないという方もあるだろう。でも映画と原作が最も異なるのはテンポだ。現場に残されたメッセージからひとつひとつ謎が解けていく展開には、次のページをめくる原動力になった。だが、映画はミステリーじみた矢継ぎ早の展開よりも登場人物を丁寧に描写することを選んだ。時に凶暴性を発揮する岡田将生はイメージに近いとしても、主人公の大学院生は加瀬亮が演じたことで一層頼りなさそうな印象に。原作を読んでいたときに、僕らがイメージした「オレたちは最強の家族だ」という台詞は、きっと小日向文世の裏返ったような声ではなかっただろう。抱くイメージは人それぞれだが、このキャスティングはおそらく多くの読者の期待とは違うものだったのではなかろうか。"夏子"さんだってもっとブスをイメージしてたし、映画の葛城は原作をデフォルメしたような極悪人だ。登場人物たちが謎と秘密を前に彼らが葛藤する姿は、原作で僕らをノセてくれたあの感覚とは違う。映像化され、不幸な出来事が明確に描かれることで、悲劇感が増幅しているのも理由のひとつだろう。

 だが、このキャストだったがためにじんわり心に響いたことがある。それは一緒に生きる"家族"に焦点がシフトしたことだ。「オレに似て嘘が下手だ」という小日向文世がにっこりとして言うひとこと、そして改めて言う「オレたちは最強の家族だ」が、原作よりもずっと心に残る。最初はヅラ被って年齢を演じわけるのがギャグのように思えて、どうもノレなかったのだが、ボディブローのようにじわじわと"この父親像もアリだよな"と納得させられてくる。そして何事もなかったかのような穏やかなラスト。遺伝という親子を結ぶ関係を超越した人間のつながりの大切さが心に残る映画だ。それは原作の読後感とはちょっと趣が違う。地味な後味な映画だが、原作よりもじっくり味わえる家族の物語としての魅力を備えているように思う。僕は映画化された「ゴールデンスランバー」はエンターテイメントとしては好きな方だ。だが一方で、"once there was a way,・・・"と歌う姿にちょっと無理を感じていた。だって歌い回し(譜割り?)が難しいあの出だしを格好良くこなす登場人物たちに、それはリアルじゃないと思えたからだ。映画化された「重力ピエロ」は血の通った暖かさと等身大で無理のない人物像を僕らの心に残してくれる。

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