◼️「天気の子」(2019年・日本)
監督=新海誠
声の出演=醍醐虎汰朗 森七菜 本田翼 小栗旬
新海誠監督の新作。正直な気持ちを言えば、僕は10代でこの作品に出会いたかった。「シング・ストリート 未来へのうた」のラストシーンでも同じことを思った。それは、僕が単に主人公二人との年齢ギャップで否定的になった訳じゃない。主人公二人に特化した展開は青春映画なら当然だし、メジャー作品として綺麗なものが多かった前作と違って、薄汚い部分までより深く都会を描くことは賞賛すべきだ。思いに従って突っ走るクライマックスの主人公を、僕は手放しで頑張れって思えなかった。周りの人々の気持ちや思いがそれぞれに胸に響いて、主人公二人に気持ちが集中できなかったのだ。もし同世代だったら、より二人をまっすぐ見据えられると思うのだ。
「君の名は」以上に深く掘り下げられた物語は、周囲の人物描写も説得力が増している。娘と会えない父親、就活で悩む女性、子供たちが守ろうとしたものと、大人たちが守ろうとしたもの。晴れを望む人々の思い。その現実味のある描かれ方やキャラクターの位置付け。それらが一気にぶつかり合うクライマックス。僕は感情移入のしどころを迷ってしまったのかもしれない。それは人間模様が深くなった監督の力量ゆえだ。
気持ちがもう一つ乗れなかった理由は、ヒロインが起こす超自然的な現象についての周囲の反応がリアルさを欠いていることだ。人間模様の深さに比べて、現実離れしたストーリーを受け入れさせるには、どうも説得力が足りないと感じる。ファンタジーじゃん、と言われればそれまでだが、緻密な人物描写との差が歴然としていたのは、僕の気持ちが盛り上がれなかった理由だ。確かに「君の名は」も超自然的な話だが、設定を受け入れるのに不思議と無理はなかった。それは最後まで二人だけに集中したストーリーだったからなのかもしれない。あ、あとスポンサー企業商品の過剰な露出にはやや冷めた。仕方ないのかもしれないけどね。
それにしても雨粒や流れる水の表現の緻密さには驚かされる。日本アニメ作品では、大きく水が動く時にドラマも大きく動くことがある。「千と千尋の神隠し」も「カリオストロの城」も「思い出のマーニー」も、最近なら「きみと波にのれたら」だってそうだ。「天気の子」の緻密さとクオリティは本当に素晴らしい。RADWIMPSの音楽も、単独の楽曲としての良さよりも作品との一体感が増した気がする。野田洋次郎の選ぶ言葉は、他のアーティストにない余韻がある。不思議と心に残るのだ(Aimerに提供した「蝶々結び」は特に傑作)。
好き嫌いと賛否もある作品だとは思う。だが、過去や伝統と現在未来の対比は心地よいし、闇を描くビターな部分に従来からの持ち味を感じるし、これだけの完成度の作品を好みだけで一蹴することは間違いだと僕は思う。