Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

新聞記者

2019-07-07 | 映画(さ行)
◾️「新聞記者」(2019年・日本)
 
監督=藤井道人
主演=シム・ウンギョン 松坂桃李 本田翼
 
もう何年もニュース番組を見てイライラしている。連日報道されているのに何も明らかにならない事件、答えにならない国会答弁、敵対心剥き出しの政治家の発言、閣議という密室でひっくり返される政府の方針。戦争で領土取り返せと言ったバカもいるが、核を持つことは憲法違反でないと言った輩が出たのも現政権の初期だったよね。何かがおかしい。ニュースを見て、読んで日々そう思う。そして政府が公平な報道とやらをマスコミに求め、モノを言えるキャスターたちはテレビから次々と姿を消している。もう危機感しか感じない。
 
そんな2019年にこの映画が製作され、参議院選挙前に全国規模で公開されたことを、心から讃えたい。近頃の政治をめぐるキーワードが散りばめられてはいるけれど、映画の基本は政治と報道をめぐるサスペンス。確かに近年騒がれた事件の裏側を感じさせるけれど、露骨な反政権映画とは思わない。でもね、こうした題材や描写がある映画が公開されることで、ピリピリする世の中自体がおかしい。それくらいに日本は歪んでしまっている。ハリウッドならもっともっと政治色の強い映画はたくさん製作されているし、スピルバーグは大統領選挙に「リンカーン」をぶつけて、どんな人物が大統領にふさわしいのか説いてさえいる。それを日本でやったら、誰かさんはきっと印象操作とか言うし、賞をとっても褒めないでしょね。
 
本当は相容れない間柄の記者と官僚それぞれの葛藤。映画はどちらかに偏ることもなく、それぞれの立場が抱えるジレンマと勇気と信念を描いていく。二人が思い悩む様子が生々しい。松坂桃李が生まれたばかりの子供を抱いて「ごめんな」と繰り返し、妻役本田翼が何も聞かずに「大丈夫だよ」と抱きしめる場面に涙がにじんだ。シム・ウンギョンの視線の熱量にも圧倒された。
 
主人公の元上司を演ずる高橋和也が死を選ぶ場面は切なさを超えて痛ましい。こんな思いをする為に、使い捨てになるために国家公務員になったんじゃないのに。スクリーンのこっち側の現実世界。近頃の事件で文書改ざんを命じられた人々が思い出されて胸が震える。そして、内閣情報調査室の上司が最後に放つひと言に、戦慄が走る。
 
若い世代に観て欲しい。監督も30代で、政治に興味がないからとオファーを何度も断ったと聞く。でもその世代だからこそ記者側にも官僚側にも偏らずに撮れた映画だと思える。あくまでこの映画はフィクション。でも紛れもない"今"が生々しく刻まれている。
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