Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

しとやかな獣

2019-11-03 | 映画(さ行)



◾️「しとやかな獣」(1962年・日本)

監督=川島雄三
主演=若尾文子 川畑愛光 伊藤雄之助 山岡久乃 浜田ゆう子

こんな面白いブラックコメディだったのか!ほんっと邦画は不勉強です。映画冒頭のタイトルバック、集合住宅の一室で模様替え?らしき夫婦の行動が映される。何か貧しく見えるような工夫をしているのだが、そこへ息子の会社の社長と会計係、そして怪しげなミュージシャン風情がやってくる。息子が会社の集金を横領していると言い出す。彼らが帰った後、息子と作家の妾になっている娘がやって来る。この一家、他人からの金銭を我がものにして贅沢な暮らしを送っているのだ。ところが、さっきの会計の女性が再びやって来て、息子との関係を清算したいと言い出した。彼女を中心に、社長や税務署の役人までも巻き込んで金銭をめぐるトラブルに事態は発展していく。次に何が起こるのか、ワクワクしてしまう。

際立ったキャラを演じる役者の巧さ。全ての登場人物を翻弄する会計係、若尾文子は言うまでもなく素晴らしい。伊藤雄之助演ずる父親の飄々としながらも計算高いずる賢さ。金の亡者のような家族を口汚く罵るけれど、その中心にいる息子。作家の妾の地位を家族に利用されながらもどこか楽しんでいる娘。そしてそんな家族を束ねているのは、山岡久乃演じる母親。この家族だけでも十分に面白いのに、出てくる人々の強すぎる個性。いきなり小沢昭一の怪しげなミュージシャンで大笑い。ラジオ育ちの僕にとって、小沢昭一はリスペクトする方の一人。この数分間だけでもう感激。

そして集合住宅の建物からカメラ離れないのに、全く飽きさせない絶妙な撮影と構図。あらゆる方向から家族と訪問者たちを見つめる視線の凄さ。部屋の俯瞰ショットならブライアン・デ・パルマ監督作品にも出てくるけれど、ここまでのワンシチュエーションで映画全編を通すなんて、そんな映画観たことない。白黒テレビから流れる音楽にのせて姉と弟が踊る場面。夕焼けというより紫色がかった空をバックに踊る二人と、黙って蕎麦をすする父と母。音楽はいつのまにか和楽器が鳴り響く。なんだこのカッコよさ!

次々に新たな展開がくるのだが、その度に家族が黙ってしまうのが「あの貧乏な生活に戻っていいのか」というひと言。高度成長の時代とは言え、まだまだ戦後を引きずっていたニッポン。若尾文子がしたたかに男たちを利用して生き抜く様子にも圧倒されるけど、これも過去に戻りたくない、変わりたいというあの時代の空気がなりふり構わない変なモチベーションとなった姿なのだろうか。脚本は新藤兼人。この人の目の付け所はどの作品でも鋭い。

そして、無言のラストシーン。あの表情に言葉を失う。
 
しとやかな獣 4Kデジタル修復版 [Blu-ray]
若尾文子,伊藤雄之助,山岡久乃
KADOKAWA / 角川書店
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする