Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

恋のロンドン狂騒曲

2019-11-09 | 映画(か行)

◼︎「恋のロンドン狂騒曲/You Will Meet A Tall Dark Stranger」(2010年・アメリカ=スペイン)

監督=ウディ・アレン
主演=アンソニー・ホプキンス アントニオ・バンデラス ナオミ・ワッツ ジョシュ・ブローリン

コメディ仕立てだから笑って観ることができるが、同じストーリーを生真面目に撮ったらドロッドロの愛憎劇だ。そこをアレン先生は4つの恋物語をそれぞれの世代にチクリと刺さる毒を含んで、軽妙なタッチで描く。「ウディ・アレンの重罪と軽罪」を撮ってた90年代のアレン先生なら、もっと深刻な映画になってただろう。しかし、私生活もいろいろあって人生達観してきたこの頃のアレン先生だからなのか、けっこうヘヴィなテーマをサラッとこなしている印象。

ナオミ・ワッツ演ずる娘が、熟年離婚で情緒不安定でアル中になりそうな母親(ジェマ・ジョーンズ)にインチキ占い師を紹介する冒頭。インチキだとわかっていても彼女はこう言う。
「人間には幻想が必要だわ」
この台詞、「ウディ・アレンの影と霧」(1992)のラストにも出てきて印象に残っていた。「ロンドン狂騒曲」では、心の拠り所としての何か。僕らも日々必要としていることだ。それが家族だったり、執着できる仕事や趣味や宗教や、はたまた恋だったり恨みだったり。このきっかけが映画後半で予想しなかった展開になっていくのは面白い。結局お告げみたいや占い師の言葉を信じる母親は、「ムー」でも読んでそうなオカルト親父と仲良くなる。人間は何かを信じることが大事なんだな、と感慨深くなる自分。若い頃なら多分バカだねえ、と笑い飛ばしてる。オレも歳とったのかな。

一方で娘の夫は売れない作家(ジョシュ・ブローリン)。窓から見える部屋に住む若い娘(「スラムドッグ$ミリオネア」のフリーダ・ピント)と恋仲になる。2作目が書けずにくすぶっているところへ、作家志望の友人が自動車事故に。彼は友人の未発表作品に目をつける…。先日観たフランス映画「EVA エヴァ」でも主人公が似たような行動をとるのだが、それを映画の結末まで引っ張った「EVA」とは違って、ウディ先生はこれをスパイスのようにピリリと効かせて皮肉な自業自得のラストを飾る。

父(アンソニー・ホプキンス)は派手なコールガールと再婚。男を維持しようと必死に身体を鍛え、ヴァイアグラを服用する姿にニヤリとしてしまう。歳とって女に狂うと男は大変、と言うけれど、まさにその姿を見せてくれる。ウディ先生の映画はいろんな男と女を見せてくれて、楽しませてくれて、時に考えさせられる。「ああはなるまい」と笑うのだけど、ああなるのも男。

全体的には地味な印象だけど、4者4様の恋愛騒動をシニカルな笑いに仕立てて、しかも受け手によってはわが身を振り返らせてしまう巧さ。「ブルー・ジャスミン」みたいに一人にスポットを当てて掘り下げるよりも、こういうオムニバス的な楽しさの方が僕は好み。ウディ先生の名人芸、堪能されたし。
 
恋のロンドン狂騒曲 Blu-ray
アントニオ・バンデラス,ジョシュ・ブローリン,アンソニー・ホプキンス,フリーダ・ピント,ルーシー・パンチ
KADOKAWA / 角川書店

コメント
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