Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

宇宙戦争

2024-04-29 | 映画(あ行)

■「宇宙戦争/War Of The Worlds」
(スティーブン・スピルバーグ/2005年・アメリカ)

主演=トム・クルーズ ダコタ・ファニング ティム・ロビンス

 子供の頃、小学校中学年向け位の少年少女文学全集みたいな本が家にあった。けっこう本好きな子供だったので親が奮発して買い与えてくれたのだ(感謝)。妹は「秘密の花園」や「若草物語」を繰り返し読んでいた。その中で僕が夢中になって繰り返し読んだのは3冊。ジュール・ベルヌ「海底二万里」と「空飛ぶ戦闘艦」、そしてH・G・ウェルズ「宇宙戦争」。夏休みの読書感想文の宿題で自由課題だったときに、迷わず選んだのも「宇宙戦争」だった。僕としてはとても思い入れのある原作。これをCG全盛の今、スピルバーグがどう映像にするのか。そこにまず興味があった。

 スピルバーグはウェルズの原作がおそらく大好きに違いない。結末は大胆に変えられちゃうのか?「インデペンデンス・デイ」みたいになったらどうしよう?と心配したけれどそれは杞憂だった。「ジョーズ」や「ジュラシック・パーク」、「未知との遭遇」がうまかったのは危難が次第に近づいていくことを表現するところ。ところが今回は大した予兆も見せない。確かに嵐とか雷とか起るけれど、以前の作品と比べると、唐突な印象を受ける。突然得体の知れないものが出てきて、いきなり街が破壊されて・・・。この変化は何だろう。これはやはり同時多発テロの影響。逃げまどう市民、崩れ落ちる建物はあの記憶を呼び起こすはず。観客は異星人への畏怖と怒りに満ちることになる。戦い続ける州兵たちの姿も痛々しいが、原作を尊重したラストには時代が時代だけにエコロジカルなメッセージを見るかのようでもある。ともかくアメリカ万歳!みたいな映画になっていないところが好感。

 トム・クルーズは叫ぶ、走る、泣く、わめく・・・これまでのヒーロー像はどこへやら。しかも不器用な父親役ってところが面白い。ダコタちゃんが歌ってと言う子守歌を知らないトムが、ビーチボーイズのLittle Deuce Coupeを歌う。ここに僕はかなりグッときました(つーか涙腺ゆるみました)。子供にこれまでかかわってこなかった遊び人の父親。子守歌も歌えない彼が歌ってあげられるのがお気楽なビーチボーイズの曲。でも歌詞にもあるように”お前は僕の宝物”。そこを娘に伝えたいその一心ってのがいいのね。しかし最後は三本足に手榴弾投げ込んだりと大活躍。あ、やっぱりトムの映画だ。

 地下室に隠れているときに触手のようなものが探ってくる場面、原作でもとても印象的なところだ。僕は原作でここを読むのがすごく怖かったのだが、スピルバーグもおそらく同じ思いがあるのだろう。地下室のシーンの緊迫感はこっちまで息が詰まりそう。そういえば「マイノリティ・リポート」に出てくる追跡メカ”スパイダー”も目が追いかけてくるもの。その原点って、実は「宇宙戦争」にあるのかもね。そうそう、見終わって思ったことがもうひとつ。「インデペンデンス・デイ」で侵略者がウィルスに(ネタバレ・反転させてね)にやられちゃうのも、実は古典たる「宇宙戦争」に対するオマージュだったのかな?。

(追記)・・・原作やジョージ・パル監督の映画版が前提としてあることを知っておかないと、古くさい映画に見えちゃうだろうな。でもハッキリ言う。そこがいいんです!。


↓文中に登場した映画とビーチボーイズのLittle Deuce Coupe



コメント (4)
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ちひろさん

2024-04-29 | 映画(た行)


◾️「ちひろさん」(2023年・日本)

監督=今泉力哉
主演=有村架純 風吹ジュン 豊嶋花 リリー・フランキー

海沿いの街のお弁当屋さんで働いているちひろさんを中心に、彼女をとりまく人々が少しずつ変わっていく姿を描いた好編。ネトフリで配信が始まって以来好評を目にしていて、そんないい話を一部だけのものにするなんて…映像コンテンツは商品だけどみんなが観られてナンボじゃないのか、とちょっとイラついていた。DVDで観られるようになり、めったに新作を借りない僕が迷わずセレクト。

不思議な魅力をもった作品。
「ちひろさんなら大丈夫。あなたなら何処にいても孤独を手放さずにいられるから」
クライマックス、風吹ジュンのひと言が心にしみる。その意味を考えさせられる。誰にも干渉されず、自分の居場所があって、自ら他人に深入りはしない。でも他人と関わることを拒絶してるわけでもなく、むしろサラッと人をつなぐ役割を果たしてくれる。

ここで使うべき言葉とは違うかもしれないが。ちひろさんは人たらしの一面がある。愛想が良くて、人を悪く言わない、人の話を聞いてくれる。決して周囲のご機嫌とりでも、人づきあいが上手でもない。それでもクライマックスの屋上シーンのように周囲の人をつないでしまう。

その一方で自分の孤独を抱えている。不安だってないわけじゃないだろう。でも自分で自分の機嫌をとれる人なんだろう。ストレスが溜まったらラーメンを食べ、海を眺める。人恋しくなったら、女友達に寄り添って、異性との愛を求めないけれど欲しくなったらそれを隠さない。甘え上手なところもある。

そんなちひろさんの過去は、"店長"リリー・フランキーから少しだけ語られる。そのわずかな言葉と、ボロボロの靴を履いたリクルートスーツ姿の彼女がビルの屋上に佇む映像は何よりも雄弁だ。必要とされる存在だと感じられないことの辛さと、形はどうあれ必要だと思ってもらえることの大切さ。劇中登場する2つの面接シーンに涙してしまった。コロナ禍の数年間に、人との距離感やつながりを考えさせられただけに、本作や「PERFECT DAYS」が多くの人の心に染みるのだろう。

食事のシーンも、家族や人とのつながり、自分を養い元気づけること、誰かを思うことにつながっていて、映画化にあたりよく練られた演出だと思った。美味いもんなら誰と食べようと一人で食べようと美味いはず。でも家族との食事がプレッシャーでしかない女子高校生オカジが、マコト少年が世界一と言う母ちゃんの焼きそばを食べる場面。こっちまでもらい泣きしてしまった。マコト少年の花束のエピソードもよかった🥹

多くの人と同様に「あまちゃん」で有村架純を知ったのだけど、女優としての彼女を僕は甘く見ていた。この映画でみせるいろんな表情と芝居に感動した。近頃の日本映画の重たそうなムードから僕はどうも敬遠しがち。不勉強だなと痛感。






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