Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ムースの隠遁

2023-11-09 | 映画(ま行)

◼️「ムースの隠遁/Le Refuge」(2009年・フランス)

監督=フランソワ・オゾン
主演=イザベル・カレ ルイ・ロナン・ショワジー メルヴィル・プポー マリー・リヴィエール

妊婦を主役にした映画を撮りたいと願っていたフランソワ・オゾン監督が、当時妊娠6ヶ月だったイザベル・カレを主役に撮ったのが本作「ムースの隠遁」である。

わたくしごとだが、自分が父親になるまでの数ヶ月間、妻の変化を通じて、女ってすげえ、男は絶対に敵わないと思った。丸くなったお腹で何が起こっているのかを考えると、それはまさに神秘。中高生の時だったか、叔母が授乳している姿をたまたま見てしまったことがある。ごめんなさい!と思う以上に、何か"神々しいものを見た"という気持ちになった。ゲイであるオゾン監督作には惹かれ合う男子もたくさん登場するが、同じくらいに女性の様々な魅力を賛美する映画を撮ってきた人でもある。妊婦の美しさをフィルムに収めた映画を撮りたいと願った気持ち、僕は理解できる気がする。

イザベル・カレを初めて観たのは、全編主観ショットという隠れた秀作「視線のエロス」。その後オドレイ・トトゥ主演作でお見かけしただけなのだが、気になる女優さんの一人だった。その2作品ではどちらかと言うとクールでキツい表情が印象に残っているのだが、「ムースの隠遁」でのイザベルは、とても柔らかい表情を見せる。映画は撮影した当時の俳優をそのまま写したものだ、って当たり前のことだけど、その時でしか撮れない貴重な時間を切り取っているのだなと改めて感じる。

ヘロイン中毒で死んだ恋人の子供を宿したヒロイン。恋人の母からは産まない選択肢を勧められる。葬儀の日で誰からも構ってもらえず、そんな冷たい言葉をかけられる。望まれない妊娠、望まれない自分。世間から隠れるように田舎の小さな家で暮らすムース。この映画の原題は"避難所"。その意味がだんだんと心に染みてくる。そこへ恋人の弟が現れる。彼もまた両親や世間と距離を置く理由があった。彼と過ごす数日間。彼と彼女の心の動きが繊細に描かれる。オゾン映画の優しい視線はこの映画でも健在だ。エンドクレジットを迎えて、名残惜しい気持ちになった。

弟ポールを演じたルイ・ロナン・ショワジーはミュージシャンで、本作の音楽も担当している。劇中ピアノで弾き語りをし、その曲はヒロインの癒しになっていく。エンドクレジットではイザベル・カレとのデュエットでその曲Le Refugeが再び流れる。

ムースが選ぶ結末が期待と違ってあまりに残念。でも、いつか3人の笑顔が並ぶ日が訪れるように…そんな祈りにも似た気持ちになった。



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私がやりました

2023-11-07 | 映画(わ行)

◼️「私がやりました/Mon Crime」(2023年・フランス)

監督=フランソワ・オゾン
主演=ナディア・テレスキウィッツ レベッカ・マルデール イザベル・ユペール ファブリス・ルキーニ アンドレ・デュソリエ

フランソワ・オゾン監督は、本作を女性をめぐる状況を笑いを交えて描いた三部作の一つと位置づけているそうだ。世代の違うそれぞれが抱える思いが印象的なだった「8人の女たち」、飾り壺のように扱われていた妻が会社で大活躍する「しあわせの雨傘」。そして本作「私がやりました」は、殺人事件に巻き込まれた売れない女優と駆け出し弁護士、2人のヒロインが窮地を逆手に成り上がっていくストーリーだ。

オリジナルの戯曲は1930年代に書かれたものだが、オゾン監督は現代を生きる女性にも重なる生きづらさを加えた。冒頭、ヒロインのマドレーヌは、映画プロデューサーに端役にキャスティングする代わりに愛人契約を結べと言われて怒って帰宅する。ところが、そのプロデューサーが誰かに殺される事件が発生。昨今世界を騒がせたワインスタインの性暴力事件が重なる仕掛けだ。弁護士の友人ポーリーヌと共に疑惑を正攻法で晴らすのかと思ったら、マドレーヌをどうしても犯人にしたい予審判事を利用して正当防衛のシナリオをでっちあげる。そして彼女たちは法廷と言う名のステージで大芝居をして、世間の注目を集めることに。ところがそこに一人の女性が現れる…。

ワインスタインを思わせる件だけではなく、登場する男たちはみんな女性を見下している輩ばかり。法廷で大演説をする検事は「女をつけあがらせるな!」と言い、傍聴する男性から拍手を浴びる。そこにポーリーヌが、男ばかりの陪審員と傍聴席に、社会の厳しさゆえに戦わなければならない女性の立場を訴え、女性からの拍手を浴びる。30年代のフランスはまだ女性参政権もない時代(認められたのは1945年で日本と同じ)。厳しい状況から彼女たちが快進撃を続け、最後にはクズな男たちで笑わせてくれる、ビバ!女性!な物語はなかなか楽しい。

嘘をつき通して世に知れ渡ると勝手に真実と扱われてしまう怖さ。そこを笑い飛ばすのがこの話の肝とも言える。だけど、映画館の暗闇でニヤニヤ笑いながらも「ええんか?」と心の片隅で現実的になってる自分もいるw。

危険なプロット」のファブリス・ルキーニ、「すべてうまくいきますように」のアンドレ・デュソリエ、そして「8人の女たち」にも出演したイザベル・ユペールら、オゾン監督ゆかりのキャストたち。ブロンドとブルネットの髪色のヒロイン。ヒッチコックの「めまい」を愛する僕は、この髪色の対比にどうも深読みをしてしまいがちw。少なくともこの映画では、お互いにない魅力をもっていて、それをお互いが認め合って、それぞれを妬みもしない関係に映る。素敵なヒロインに拍手を贈ろう。




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シノーラ

2023-11-06 | 映画(さ行)

◼️「シノーラ/Joe Kidd」(1972年・アメリカ)

監督=ジョン・スタージェス
主演=クリント・イーストウッド ロバート・デュバル ジョン・サクソン ドン・ストラウド

荒野の七人」などで知られるジョン・スタージェス監督とクリント・イーストウッド が組んだウエスタン。撮影は「ダーティハリー」のロバート・サーティーズ、音楽ラロ・シフリン。初見は1993年に地上波放送にて。2022年にBSPの録画で再鑑賞。

西部にも法の支配が及んできた時代。メキシコ系の人々が住んでいた土地をめぐって、開拓者としてやって来た白人が権利を主張して争いが発生していた。双方が法廷での解決を好ましく思わず、メキシコ系のチャマ(ジョン・サクソン)を追って銃で決着をつけようとする悪役ハーラン(ロバート・デュバル)の対立。保安官も何も出来ずにいる。土地勘があることからハーランに雇われたジョー(イーストウッド )だが独自で事態を解決しようと動き出す。

名の知れたスタッフ、キャストが揃っているけれど派手さはない。法による秩序がうまく機能していない時代のじれったさが全編に漂う。勧善懲悪ではあるのだがスカッとする娯楽作ではない。イーストウッドのマルパソプロダクションが手がけた西部劇は、現代にも通ずる不安やテーマが取り上げられるが、主人公の素性がよくわからないまま話が進んでしまうので、説得力が乏しい印象。

それでもクライマックスは、敵の布陣を破るために蒸気機関車を使う突然のド派手な展開から、裁判所を迷路のように使う演出が面白い。また、スナイパーと撃ち合うライフル対決シーンは、緊張感あるいい場面。後の「アメリカン・スナイパー」を思わせる。結局、イーストウッドが放つ銃弾でしか問題が解決できない結末。無力な保安官の態度に拳を振るう苛立ちが心に残る。



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シークレット・レンズ

2023-11-05 | 映画(さ行)

◼️「シークレット・レンズ/Wrong Is Right」(1982年・アメリカ)

監督=リチャード・ブルックス
主演=ショーン・コネリー キャサリン・ロス ジョージ・グリザード ロバート・コンラッド

中東を取材中のテレビキャスターが、国家ぐるみの原子爆弾取引を知ってしまった。CIAや米国大統領、国家間の裏事情、さらに大統領選挙の勝敗が複雑にからみ、アメリカが置かれた微妙な立場を浮き彫りにする。

80年代初頭に、中東とアメリカの関係をテーマにした映画はなかなかない。そうした先見性や着眼点はいいのだが、幅広くエピソードを欲張りに盛ってしまっている。娯楽に徹したいのか、社会的なメッセージを発したいのか、焦点がボケた印象を受ける。タイトルとおり「レンズ」なだけにw。

この頃、ショーン・コネリーの出演作はバラエティに富んできて、重厚な文芸大作もあればメロドラマやSFもある。本作は名前の知れた俳優がズラリと並びなかなか魅力的。僕はキャサリン・ロスがお目当てだったのだが、強く印象に残るような役柄でもなかったのは残念。ジェニファー・ジェーソン・リーは、「初体験リッジモント・ハイ」と同年の作品。どこに出てたんだろw。






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白い婚礼

2023-11-04 | 映画(さ行)


◼️「白い婚礼/Noce Blanche」(1989年・フランス)

監督=ジャン・クロード・ブリソー
主演=ヴァネッサ・パラディ ブリューノ・クレメール リュドミラ・ミカエル

僕はフレンチロリータに弱い。銀幕上の恋愛遍歴(笑)はソフィー・マルソーから始まって、新旧フランス女優たちに次々に恋してしまった。バネッサ・パラディもその一人。

90年代に入った頃、週末にやってた海外ニュース番組で、フランスで17歳のトップアイドルが主演した映画が大ヒットとのニュースが流れていた。ヒット曲を連発した彼女は、初主演の映画で中年の先生と恋をする小悪魔的な美少女を演じている。しかもヌードも辞さない熱演。ヒット曲「夢見るジョー(Joe Le Taxi)」のPVとともに映画「白い婚礼」の一場面が流された。草の茂った斜面で男性を誘う白いワンピース姿が心に残った。ど、どんな映画だろ。

同じ頃、僕はセルジュ・ゲンスブールにどハマりしていて、彼がプロデュースした女性アーティストや女優の音楽を新旧見境なく聴いていた。バネッサ・パラディのアルバム2作目「ヴァリアシオン」をプロデュースしたのはセルジュ。1作目の「マリリン&ジョン」もよく聴いた。10代のすきっ歯の小娘が大統領と女優の恋を歌う。ヨーロッパ音楽の憂いのあるシンセ音と舌足らずなボーカル。

「白い婚礼」でバネッサの相手役は、「恐怖の報酬」リメイク版も印象的だったブリュノ・クレメール。思わぬ恋に戸惑うのはむしろ彼の方。これを観た頃、テレビでは野島伸司脚本の「高校教師」が流行ってた。あれもセンセーショナルだったし、切なさに夢中になったけれど、「白い婚礼」は似たような題材ながら、もっと宿命的で破滅的。そしてフランス映画らしい人物像の掘り下げがある。二人が校舎の隅で抱き合うクライマックスにはハラハラ。そして好ましくない結末が訪れる。

10代のポップスターがこの役を演じたことで騒いでた当時の報道。本編を観るとその衝撃は理解できる。そしてレニー・クラビッツがプロデュースした名盤「ビー・マイ・ベイビー」が大ヒットして、みんなのハートを射止めることになるのだ。



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誰もがそれを知っている

2023-11-01 | 映画(た行)


◾️「誰もがそれを知っている/Todos lo saben」(2018年・イタリア=スペイン=フランス)

監督=アスガー・ハルファディ
主演=ペネロペ・クルス ハビエル・バルデム リカルド・ダリン バルバラ・レニー

妹の結婚式の為にアルゼンチンからスペインに里帰りしたラウラと子供たち。幼なじみパコや家族との再会を喜んだが、結婚式後のパーティーの最中に娘イレーネの姿が見えなくなってしまう。そして身代金を要求する連絡が。アルゼンチンから夫も駆けつける。時間稼ぎの策を講じる中で、次第に家族が隠してきた秘密が明らかになっていく。

ハルファディ監督の映画は、「彼女が消えた浜辺」を観たことがある。「誰もがそれを知っている」と同様に、楽しい時間の中で誰かがいなくなり、不安な空気の中で次第に複雑な人間関係が露わになっていく物語だ。「彼女が消えた〜」が悶々とした気持ちで終わりを迎えるのに対して、こちらは一応の決着を迎える。娘の為に隠してきた事実を口にする妻、ラストシーンで問いかけに答えられない無言の夫、そして幼なじみのパコが思いがけず知ってしまう事実。とにかく切なく、痛々しい。そんな3人をとりまく人々が、事件の背景と次第に重なる展開にハラハラする。

エンドクレジットを迎えて、タイトルにいろんな意味が受け取れる。「それ」とは事件の真相、夫婦が隠してきた事実、貧しい村の現実、過去。ペネロペ・クルスとハビエル・バルデムの夫婦共演。「瞳の奥の秘密」のリカルド・ダリンは無表情なのに、感情が伝わるいい演技。

(2019年12月)

『誰もがそれを知っている』日本版予告編


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ペネロペ・クルス,ハビエル・バルデム,リカルド・ダリン
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