Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

オッペンハイマー

2024-04-09 | 映画(あ行)


◾️「オッペンハイマー/Oppenheimer」(2023年・アメリカ)

監督=クリストファー・ノーラン
主演=キリアン・マーフィー エミリー・ブラント ロバート・ダウニーJr. マット・デイモン 

クリストファー・ノーランがオスカーを制した「オッペンハイマー」。これまでノーランはSF、サスペンス、アメコミ、戦争映画を手がけ、時系列と既成概念をぶち壊す大胆な演出で一時代を築いた。歴史に残るヒット作の中に作家性を保ち続ける作風。何もここまでめんどくさい映画にしなくても…と毎回思ってきた。非現実と非日常を描いてきたノーランが次に手がけたのは現実世界の出来事。しかも原爆の父と呼ばれた物理学者オッペンハイマーの伝記映画だ。

おそらく僕ら世代の映画ファンなら「シンドラーのリスト」を撮ったスピルバーグを重ねてしまうのではなかろうか。ファンタジーを撮る映画少年が、ホロコーストという厳しい現実を撮る。誰もが驚いたし、その出来栄えに賞賛を送った。ノーランも同じ道を辿っているように思える。

被爆国日本での公開は諸般の事情で大きく遅れた。その意見や感情は理解できる。正直なところ、僕も映画館に駆けつけたい程の気持ちにはなれなかった。スクリーンできのこ雲を観て、冷静な気持ちになれるだろうか。ロスアラモスで開発が進むシーンを観ながら、心の片隅で「やめろ」と声がする。結末も歴史も分かっているのに。

映画は原爆投下を正当化している訳ではない。正直なところ、もっと米国万歳な話になっているのではないかと疑っていた。あくまでもオッペンハイマー自身の心境の変化と、彼をとりまく人々の人間模様と対立を徹底した会話劇で示していく。

原子爆弾の開発という目的のために物理学者が集められる。「これは学問の集大成だ」と彼らは言う。学者としてこれ以上ない大実験の機会が与えられたのだから。そんな中でも、オッペンハイマーの友人でもある物理学者ラビが「学問の集大成が大量破壊兵器でいいのか」と冷静なひと言を発する場面は強く印象に残る。しかし、戦争という時代の空気はそうした声をかき消す。さらに、ユダヤ人としてナチスによるホロコーストを許せないオッペンハイマーの気持ちは揺らぐことはなかった。

原爆投下の罪はアメリカ政府にある。ホワイトハウスでのオッペンハイマーとトルーマン大統領との会話はそれを強く印象づける。
「私の手は血塗られている気がします」
オッペンハイマーの言葉を「泣き虫」だと罵る大統領。ロスアラモスにいた物理学者たちも、ナチスドイツが降伏した後、敗戦がほぼ決定的だった日本に原爆を使うことは望んでいなかった。こうした人々や意見が描かれたことで、否定的な意見があったことが広く知られたらいい。本当に憎むべきは、新型爆弾を使う発想しかなかった戦争なのだ。その政府は水爆開発に否定的な彼が都合が悪い存在になり、赤狩りで表舞台から退かせる。

スティングの歌の中で、Oppenheimer's deadly toyと歌われる核兵器。恐ろしいおもちゃ。

作ったことが罪なのか。
使ったことが罪なのか。
本当の破壊者って誰なのか。

広島、長崎の惨状をオッペンハイマーが映像で目にする場面は無言でサラッと過ぎていく。そこで何を見たのかが描かれないことに不満はある。NHKで放送された「映像の世紀バタフライ・エフェクト」では、この場面について次のようなエピソードを流していた。

長崎の惨状を見てきた一人が「爆弾で立て髪の半分を失った馬がいたが、幸せそうに草を食っていた」と報告したことに、オッペンハイマーは「原爆を善意ある兵器かのように言うのはやめろ」と言い放った、という。映画のオッペンハイマーの口からこの台詞を聞きたかった。

3時間近い時間、人間の弱さと醜さを見せつけられた気がした。視点の違い、現在と過去を色彩の差で構成した演出は見事だ。この映画は、戦火が収まらない今の世界に核兵器について考えさせるきっかけを作ったかもしれない。アメリカの観客にどう受け取られているのかは気になるところだ。それにしても、2023年のアカデミー賞で、本作と核が産んだ脅威である「ゴジラ」が揃って受賞したことに因縁のようなものを感じてしまう。これも日本人の身勝手な感想なのかもしれないけど。




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SPY×FAMILY Season2

2024-04-07 | テレビ・アニメ



長女とキャアキャア言いながら楽しんでいるSPY×FAMILY。第2シーズンは初回からファミリー向けのほんわかムードで、このまま害のない路線で押し通しちゃうのかなと、微笑ましく見つめながらも、どこか物足りなさを感じていた。

ところがどっこい。政府広告にまで使われたファミリー向けなパブリック・イメージを覆すエピソードが待っていた。第30話「戦慄の豪華客船」から数週間に渡る回。長女は愛犬ボンド不在にやや不満。だが父親たる僕は、ヨルの殺し屋相手の大活劇、並行する別の危機を救うロイドの活躍、その間で奔走するアーニャのグッジョブに、ワクワクがおさまらないっ!しかも描写がこれまでにない、暴力、流血、スリル😱

🤩エレガントっ!実にエレガントっ!
ヘンダーソン先生のように讃える父親。
🧑🏻すごい!すごいけど、これファミリー向けアニメよね?
とまどう長女。
😣悪役こんなに来やがったぁ!
劇場版のヨルもカッコよかったけど、このアクションをテレビで楽しめるとは!しかも無双ぶりっ!絶体絶命からの起死回生。ヨルさんファンには感動もんです。
🧑🏻うわっ!殺し屋が他の奴殺した!えー、血が、血が🩸ええーっ!?部長さーん💦

SPY×FAMILYで人が死ぬシーンがっ!小さいお子ちゃまも一緒に見てるご家庭はびっくりしたかもな。それでも毎週人が死ぬようなメガネの少年探偵アニメよりは、教育的にマシだと思いますw(個人の感想です)。

最後のベッキー回もよかった。ロイド様っ♡少女の憧れが微笑ましいのが、エスカレートする行動にもう笑うしかない。髪を振りほどく場面には、こっちも頭振りながらケラケラテレビの前で笑ってました。

湯浅政明監督によるオープニングが好きっ。そしてED曲の「トドメの一撃」が素晴らしい。長澤まさみ出演のPVがドラマ仕立てでこれまたカッコいい(本編と関係なくてすみません💦)。Cory Wongのギター、カッティング🎸がかっちょよくって、彼の作品を検索してあれこれ聴いた。カラオケ🎤で歌いたいっ♪

近頃、長女に家事のヘルプを頼むメールの件名にひと言添えることにしている。例えば、こんな感じ。
📱「件名:オペレーション・ストリクス🦉
雨が降りそうなので、洗濯物を取り入れるべし🧺」
変なノリの父娘ですみません💧



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52ヘルツのクジラたち

2024-04-05 | 映画(か行)


◾️「52ヘルツのクジラたち」(2024年・日本)

監督=成島出
主演=杉咲花 志尊淳 宮沢氷魚 小野花梨

いざ観てみればいい話だし、役者のいい仕事も見られるし、もちろん感動させられる。だけどついつい重いテーマを扱う日本映画を避けてしまう。別にお気軽なエンターテイメントだけを求めて観る映画を選んでる訳じゃなくて、社会が問題としている事から目を背けるつもりもない。ただ映画館で辛い思いをしたくない。

それに重いテーマを前にした自分が、どんな感想をもってしまうのかが怖くなることもある。他人事にしか思えなかったらどうしよう、逆に身につまされる要素を何か感じ取って過剰に感情が揺さぶられてしまったらどうしよう。スクリーンに向かう自分が試されているような気持ちになって、劇場鑑賞に二の足を踏んでる映画はあれこれある。観たけれどうまくレビューできないものもある。「52ヘルツのクジラたち」も正直なところ、観ようと思うまでに時間を要した。

ヤングケアラー、ネグレクト、ドメスティック・バイオレンス、トランスジェンダーと多くのテーマを抱えた原作小説。それだけの要素がきちんと描かれているのか。表面的な話にとどまっているのではないのか。観る前に少なからずそう思っていたのだが、それは杞憂だった。文章では描けても、映像化するために補完しなければならないことに真摯に向き合った映画だと思えた。観てよかった。

杉咲花ら、出演者は当事者の方々に不快な思いをさせないように役作りをしていたと聞く。画面に登場する人それぞれが、自分の思いに真っ直ぐ。辛い場面やエピソードも出てくるけれど、言動の裏にある気持ちを考えること、手を差し伸べてくれる人の温かさを思い知ることができる良作。魂のつがい、いい言葉だな。

届かない声だけれども、映画でなら誰もがその気持ちに寄り添える。気持ちを知ることができる。それは物事に向き合うための第一歩だ。

少年の身寄りを探して訪れる小倉では、小倉駅とチャチャタウン小倉の観覧車が登場。毎度思うが、北九州ロケはほんっとに自己主張強めw。海を見下ろすバルコニーは、大分の別府湾を見下ろす高台にある住宅を使ってロケが行われた。確かにこの風景を撮るためには、穏やかな海に向かって斜面が広がる別府市は格好の場所だろう。海に面した佐賀関の風景と倍賞美津子や金子大地の大分弁がちょっと温かな気持ちにしてくれた。








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アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵〜パディントン発4時50分〜

2024-04-03 | 映画(あ行)


◾️「アガサ・クリスティー  奥さまは名探偵〜パディントン発4時50分/Le Crime Est Notre Affaire」(2008年・フランス)

監督=パスカル・トマ
主演=カトリーヌ・フロ アンドレ・デュソリエ キアラ・マストロヤンニ メルヴィル・プポー

カトリーヌ・フロとアンドレ・デュソリエによるおしどり探偵シリーズ第2作。アガサ・クリスティの原作「パディントン発4時50分」は、ミスマープルシリーズの一編。原作では、家政婦に謎の屋敷への潜入を依頼するのだが、この翻案では好奇心の塊である素人探偵プリュダンスが自ら乗り込んでいく。気難しい屋敷の主人と変わった家族たちに、持ち前の明るさとバイタリティで接していく姿がスリリングで楽しい。前作同様、夫ベリゼールがそれに巻き込まれる。

予告編の編集が実に見事で、細切れでつながれたカットだけで判断すると、とんでもなく危険なお話のように見える。いざ本編を観ると、それぞれがユーモアあふれる場面ばかりだと気付かされる。予告編から観る方々は気持ちよく騙されるw。

皮肉の効いたやり取りは前作同様なのだが、本作は登場人物も多く、お話をテンポよく進める必要もあるから、前作に感じたオシャレ感はやや控えめ。だが、本格ミステリーと出しゃばり夫婦の推理劇の楽しさは、うまい具合にブレンドされていて、死体も殺人も出てくるエンタメ色と、ハッとする謎解きの展開はこちらの方が上かもしれない。まぁ、好みの問題でしょうけど。

キアラ・マストロヤンニ、メルヴィル・プポー、イポリット・ジラルド、それにクリスチャン・バディムと共演陣も名の通った面々。個人的には、謎解きよりも雰囲気に浸りたいタイプの映画だと思えた。そのために繰り返し観てもいいかな。




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