「転生」 篠田節子 講談社ノベルス
この物語の主人公はなんとチベットの金色のミイラ。
なかなかユニークな設定の多い篠田節子氏ですが、これはまた・・・。
やや、はじめのうちは戸惑いつつ読んでいったのですが、やがて引き込まれていきます。
それは少年ロプサンの本音の語りが読み手のガイドとなってくれるから。
さて、このミイラとは、中国政府に虐げられ、
10年の獄中生活の末命を落としたパンチェンラマ10世。
ミイラとして寺院に祭られていたものが、なぜか突然よみがえって動き出したのです。
しかも、高潔な僧侶のはずが、なぜか好きなのはモモと女・・・。
ミイラのクセにデブ。
・・・?!。
別に子供向けのストーリーでもギャグでもないのですが、
読み進むうち、チベットの置かれた大変悲惨な状況が見えてきます。
今までチベットといえば仏教のさかんな大変平和な国・・・くらいの認識しかありませんでした。
もともと大変貧しい国ですが、中国の支配下におこうとする動きが大きく、
要職は中国人が占めていて、チベット人にはまともな職がないというのです。
自由を求める解放軍、対する警察隊。
反抗するものは容赦なく投獄され、拷問を受けているという・・・。
これは昔の話ではありません。
ケータイも、パソコンも、北京オリンピックの話も出てくるれっきとした現在の話。
私自身の認識の薄さを反省した次第です。
このミイラ僧、ラマは、それでも次第に僧としての自覚を取り戻していきまして、
中国政府の仕掛ける壮大な計画を阻止しようと立ち上がるのであります。
不思議で奥深いストーリーでした。
先ごろ、たまたまですが、NHKの番組でエベレスト街道のトレッキングというのをやっていました。
天空の街道。
エベレストに登るわけではないのですが、近辺の道を何日もかけてトレッキングするのです。
それ自体が、3000~5000メートルという高所で、空気が薄いため、なかなかきつい。
チベット人のシェルパが大きな荷物を持ってすたすたと先導していました。
まさにこの物語の舞台の山道。
植物もほとんどない瓦礫の道です。
山また山・・・、車も通れない細く険しい道。
しかし、空は真っ青です。
私にはとても行き着けそうにありませんが、その場には立ってみたい気がします。
番組では、この本のような政治事情は何も語られませんが、
ヒマラヤの氷河はすでに溶け出しているといいます。
川の水量が増え、橋が流されてしまったところがあるとか。
また、氷河が溶けて湖ができていて、それも年々広がっている。
もし、それが決壊したら下の村で洪水になる、その可能性は大きいというのです。
政治的危機もさることながら、地球温暖化による危機もまた大きな不安材料。
こういうことを知っても、何もできないのが歯がゆいです。
とりあえず、無関心ではいないでおこうと、それくらいしかできないのか・・・。
満足度★★★★