「警官の血 上・下」 佐々木 譲 新潮社
お正月用に奮発して買ったハードカバーの上下2巻。
・・・実は私は上・下に別れていることに気づかず、先に一冊だけ買って帰ったのです。
さて、よむぞ~、と取り出したそれはなんと下巻でした・・・。
知らずに買うにしても、何で下巻なんだ~!
上巻なら、とりあえず読めたのに・・・。
しくしく。
警察小説って、普段はあまり近寄らないジャンルです。
ただ、今回は「このミステリがすごい!」2008年版で一位となった作品なので、敬意を表して読んでみました。
これが大河ドラマなんですねえ。
親子3代に渡って警察官の物語。
まずは安城清二。
終戦後、新しい警察制度が始まったばかりの頃、
ごく簡単な試験で大量の職員を雇わなければならなかった、そんな時に警官になります。
仕事熱心で、人柄もよく、いかにも「おまわりさん」的。
駐在所勤務ということで、殺人事件の捜査などに係る立場ではないのですが、
近辺でおこった二つの殺人事件に興味を覚え、個人的に調べて回ったりもしたのです。
一人は近所の公園の浮浪者。
もう一人は鉄道員。
共通点として、どちらも若い美青年。
そしてまた、調べるうちに、彼らの周りに見え隠れしていた刑事の姿・・・。
しかしある夜、駐在所の隣にある重要文化財の五重塔の火災があり、
その時、急に姿を消した清二は、まもなく跨線橋から転落死しているのが発見される。
さて、その遺児である、民雄もいつしか警官を目指していた。
彼は子供の頃見ていた父親の姿を尊敬しており、
また、父親の謎の死を解き明かしたいという思いも抱いていたのです。
しかし、彼はその頃盛んになっていた学生運動のスパイ活動をする任務につくことになってしまう。
左翼の組織に潜伏し情報を公安に流す、その任務にはある程度の実績をあげたものの、極度のストレスから精神を病んでしまう。
やがて、その任務から離れ、自身の希望で父と同じ駐在所勤務となります。
この頃から、彼は父が手がけていた懸案の事件を引き継いで調べ始める。
しかし、ある人質立てこもり事件であえなく殉死。
さて、3代目はその息子、和也。
ここまで来ると時代はほとんど現代。
図らずもまた父と同じように特命を受け、上司の不正を暴く任務につく。
その任務には成功したものの、その上司が最後に放った言葉は
「お前、自分の父親が模範警察官だったと信じてないか」というもの。
苦い思いが残る。
その言葉が気になり、彼もまた、祖父と父の追っていた事件をまた、調べ始めるのですが・・・。
最後にたどり着いた真相は・・・?!
非情に苦い結末です。
振り返ってみれば結局時代背景に添いながら、警察の暗部を描き出している。
代を追うごとに、単に正しい「おまわりさん」から、
苦悩し、汚れ、ふてぶてしさをも身に着けていく。
DNAの進化とでも言いましょうか・・・。
読み応えたっぷりの作品です。
満足度 ★★★★