映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

その名にちなんで

2008年01月12日 | 映画(さ行)

ピュリツア賞受賞作家であるジュンパ・ラヒリの小説の映画化です。
この監督ミーラー・ナーイル自信インドの出身で、この物語に深く共感し、映画化となったとのこと。

インドでお見合い結婚をした男女がアメリカへ移住し、新しい家族を作り上げていくストーリーです。
アシュケとアシマは、お見合いをした日にすぐ結婚を決め、まもなくニューヨークへ移り住みます。
インドを始めてはなれた妻アシマにとっては、まったくの異文化の中に放り込まれ不安。
大海の中に小船で漕ぎ出すような心もとなさ・・・。
そんななかで少しずつ二人は愛と絆を深めていくのです。
やがて二人の子供が生まれる。
兄ゴーゴリと妹ソニア。

このゴーゴリという名前が問題。
インドでは、生まれてすぐに名前をきめず、とりあえず仮の名前をつけ、
かなり成長した後に正式な名前を決めるという風習があるそうです。
ところがアメリカの病院で出産したアシマ。
すぐに名前を決めて、出生届をしなければならないと迫られる。
そこで、父、アシュケは自身の体験上大変重要な名前、「ゴーゴリ」と名づけるのです。
ところがこの名前、まあ、日本人としてはそれほど感じませんが、
アメリカではかなり変な名前なんですね。
実はロシア人の作家ニコライ・ゴーゴリの名前からとったものなのですが。
さて、あっという間に子供たちは長じてゴーゴリも大学生。
彼はインド人の両親から生まれたわけですが、アメリカ育ちの、アメリカ人!なのです。
ただでさえ親と子は世代間のギャップがあるのに、ここではカルチャーのギャップも加わっている。
彼はいつも名前のことで友人たちにからかわれるので、この名前に嫌気が差し、小学校に上がるときに一応決まっていた正式の名前、「ニキル」を使うと宣言。
父アシュケは本人の意思を尊重しますが、
あるとき、単身赴任でしばらく家を離れる前に、ゴーゴリの名前の本当の由来を息子に打ち明けるのです。
ところがまもなく、父が単身赴任先で急死。
ゴーゴリは葬儀の事などを長男として取り仕切るのですが、
そんななかで、父の残した言葉を思い、インド人としての伝統に触れるうち、自らの内のアイデンティティーを見出すのです。

多分にアメリカナイズされた生活の中でも、祖国の文化・伝統は受け継がれていくもの・・・。
そういう中の自分。
両親が思いをこめた名前。
自分はどこから来た何者なのか・・・。
それはこの先の将来には係らないことかもしれませんが、まず自分自身を知る。
そのゆるぎない自信が将来へ向けての勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

アメリカでは、移民のこのようなストーリーが数々あるのだろうと思います。
同じ移民のインド人同士のつながりも大変深く、アメリカの生活を受け入れながらも自分たちの伝統も守っていく。
以前に見た「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」も同様でした。
このようにして、少しずつ2世、3世としてその地に同化していく。
世界中がこのように変わっていけたら、世界は少しは平和かも知れません・・・。

2006年/アメリカ=インド/122分
監督ミーラー・ナーイル
出演:イルファン・カーン、タブー、カル・ペン、ジャシンダ・バレット

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