映画と本の『たんぽぽ館』

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「ねじまき鳥クロニクル」 村上春樹 

2016年08月10日 | 本(その他)
“絶対悪”と対峙する男

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


 
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 第1部 泥棒かささぎ編
 第2部 予言する鳥編
 第3部 鳥刺し男編


さあ、読みましたねえ、3冊。
ふう、凄い話だった・・・。
 一言で言ってしまえばつまり、「ねじまき鳥」と称する、一見ごく普通の男性が、
 不意にいなくなってしまった妻を取り戻そうとする話だよね。
そう言ってしまうと身もフタもないんだけどさ、その過程が尋常ではない、ということだよ。


まずは、この1部~3部の章題を読んでもま~ったく内容は分からないし、想像もつかないというのも面白い。
そもそもねじまき鳥っていうのは・・・?
運命のネジをまく鳥、だね。
 人々は自分の意志で運命を切り開くと思っているけど、
 実は予め定められた「運命」を、たどるのだ。
 それはねじまき鳥がネジを巻くことで動き出す。
オカダ・トオル(=ねじまき鳥)は物語のはじめころから、
 この鳥がギリギリギリ・・・とネジを巻く音を聞くんだよね。
言ってみればこのストーリー全般の背後に、この音が響いているのかもしれない。


村上春樹のストーリーには、巨悪というか絶対悪というか、何か悪魔的な存在が登場するよね。
 本作では綿谷ノボルであり、この前読んだ「海辺のカフカ」ではジョニー・ウォーカーだった。
 それは恐怖と嫌悪の対象であり、苦痛と死であり、
 主人公が乗り越え、駆逐しなければならないモノなんだ。
しかも主人公は孤独な存在。
 単身で立ち向かわなければならないんだね。
そう、だけれども実は、色々な人達に助けられるわけ。
 彼と関わった様々な人たちの。
本作でもね、最後の最後、最も危ない場面では
 実は笠原メイが助けてくれたようなんだよね。
そう、彼を井戸の底に取り残したりする、危ない存在ではあったのだけれどね・・・。


それから本作、満州での過去の出来事が下敷きになってるよね。
 顔を背けたくなるようなすご~く残酷なシーンがあったりして。
それだよ。それこそが、その「絶対悪」の恐怖を具体的に表した部分なんだと思う。


だけれども、人はその絶対悪を恐怖する一方、妙に心惹かれてしまうこともあるんだよね。
そうなんだよ。惹かれると言うか、魅入られ、絡め取られて身動きできなくなってしまうんだ。
 それが妻のクミコの立場。
 だから、クミコを連れ戻そうとするのは余計に困難。
絶対悪に対する存在、ということで、もしかして、ねじまき鳥氏は神なの?
いやあ、むしろ「神の子」なんじゃないかな。
 その“しるし”が頬のアザだ。
 人々の苦難を一手に背負い、救おうとあがく。
 まあ、そういう構図ってことだね・・・。
そうか、じゃ結局彼の助けになる人たちっていうのが「使徒」ってことだ!


枯れた深い井戸の底の真っ暗闇。
 そこでは自分の体も何も見えないから、
 自分が純粋に「心」だけの存在になったような気がする。
なんだか分かるような気がするよね。
だからそういう状況で、彼は、ここではない何処かへ通り抜けることができるんだ。
夢と現実の境界がわからなくなったりするのも、村上春樹作品には多いね。
それは事実ではないけれど、真実だったりするわけだな・・・?


実に、深くて興味深いストーリーなのでした。
 こうしてみると「ノルウェーの森」は、村上春樹作品としては異色的に現実的だったんだね。
 ずっと前に読んだ「世界の終わりと・・・」の世界観は、
 今読んでいるようなストーリーを踏まえると、その世界観がもっと分かりやすかったんじゃないかな。
もう一度読みたくなってきたね。

「ねじまき鳥クロニクル」 村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★★