ユダヤの人権を取り戻す裁判

* * * * * * * * * *
グスタフ・クリムトの名画「黄金のアデーレ」をめぐって
実際に起こった裁判とその数奇な物語を映画化したものです。
カリフォルニアに住む82歳、マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)が、
オーストリア政府を相手に裁判を起こしました。
現在オーストリアにある彼女の叔母の肖像画「黄金のアデーレ」は、
かつて自分の家にあり、ナチスに略奪されたものなので、返還してほしい、と。


先に、「ミケランジェロ・プロジェクト」でも、
そんなふうにナチスがユダヤ人から略奪した数多の美術品の物語を見たばかりでした。
このマリアも、オーストリア、ウィーンで生まれ育ったユダヤ人なのです。
家はかなり裕福でした。
華やかで幸福の絶頂ともいうべき彼女の結婚式の後まもなく、
ナチスドイツがオーストリアを占拠。
ユダヤ人の受難が始まります。
意外にもオーストリアの人々は、ドイツの旗を降ってナチスを歓迎して受け入れます。
子供たちはこぞって、「ハイル・ヒトラー」のポーズ。
そして、これまでとは手のひらを返したように
ユダヤ人を蔑み、差別を始めるのです。

ユダヤ人の豊かさを妬む人々も多かったのだろうなあ・・・。
だからといって、何もかもを奪い収容所送り・・・というのはあまりにも理不尽です。
歴史の暗部に、気持ちが暗澹としてきます。
それでも命からがら間一髪で、
マリアは夫ともにアメリカへ脱出することができたわけですが・・・。

マリアの裁判に力を尽くしたのが、若き駆出しの弁護士ランドル・シェーンベルグ(ライアン・レイノルズ)です。
彼自身もオーストリアから亡命したユダヤ人の孫。
彼の祖父母とマリアは交友があったのです。
始めのうち、ランドルはこの高額な絵画の裁判を、お金目当てで弁護を引き受けたのですが、
マリアとともにオーストリアへ渡り、彼女が体験した苦悩を知るうちに本気になっていきます。
はじめマリアはオーストリアへ渡ることさえ拒否していたのです。
懐かしい故郷のはずなのに、昔の記憶が蘇ることが怖いのです。
だからこの年まで一度も故郷へ帰ったことはない。
そんな気持ちをランドルは深く理解するようになります。

けれど事情はわかっていても、オーストリア政府は決してその絵を手放そうとしません。
この絵はいわばフランスにとっての「モナリザ」のようなもの。
あまりにも自国の象徴的なものとなっているために、意地でも手放したくはない。
裁判は長引き、さすがにマリアは、
「もういい。諦めて元の平和な生活に戻りたい・・・」
というのですが、ランドルは絶対に諦めない。
そのように立場が逆転していくのもいいところ。
彼の奥様がまた、普通なら「そんなバカな仕事にはもうかかわらないで」
と言うところですが、夫を励ますんですよ。
泣かせますねえ・・・。

結局ランドルは「絵」を取り戻そうとしたのではない。
過去にナチスとオーストリアの人々に奪われたマリア、そしてユダヤ人の
「人権」を取り戻すための裁判であったように思います。
オーストリアの人々が今でもユダヤ人に差別的というわけではありません。
ちゃんとオーストリアの「良心」的存在として、
彼らの手助けをする青年(ダニエル・ブリュール)が配置されています。
深く心に訴える物語でした。
「黄金のアデーレ 名画の帰還」
2015年/アメリカ・イギリス/109分
監督:サイモン・カーティス
出演:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ、タチアナ・マズラニー
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★

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グスタフ・クリムトの名画「黄金のアデーレ」をめぐって
実際に起こった裁判とその数奇な物語を映画化したものです。
カリフォルニアに住む82歳、マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)が、
オーストリア政府を相手に裁判を起こしました。
現在オーストリアにある彼女の叔母の肖像画「黄金のアデーレ」は、
かつて自分の家にあり、ナチスに略奪されたものなので、返還してほしい、と。


先に、「ミケランジェロ・プロジェクト」でも、
そんなふうにナチスがユダヤ人から略奪した数多の美術品の物語を見たばかりでした。
このマリアも、オーストリア、ウィーンで生まれ育ったユダヤ人なのです。
家はかなり裕福でした。
華やかで幸福の絶頂ともいうべき彼女の結婚式の後まもなく、
ナチスドイツがオーストリアを占拠。
ユダヤ人の受難が始まります。
意外にもオーストリアの人々は、ドイツの旗を降ってナチスを歓迎して受け入れます。
子供たちはこぞって、「ハイル・ヒトラー」のポーズ。
そして、これまでとは手のひらを返したように
ユダヤ人を蔑み、差別を始めるのです。

ユダヤ人の豊かさを妬む人々も多かったのだろうなあ・・・。
だからといって、何もかもを奪い収容所送り・・・というのはあまりにも理不尽です。
歴史の暗部に、気持ちが暗澹としてきます。
それでも命からがら間一髪で、
マリアは夫ともにアメリカへ脱出することができたわけですが・・・。

マリアの裁判に力を尽くしたのが、若き駆出しの弁護士ランドル・シェーンベルグ(ライアン・レイノルズ)です。
彼自身もオーストリアから亡命したユダヤ人の孫。
彼の祖父母とマリアは交友があったのです。
始めのうち、ランドルはこの高額な絵画の裁判を、お金目当てで弁護を引き受けたのですが、
マリアとともにオーストリアへ渡り、彼女が体験した苦悩を知るうちに本気になっていきます。
はじめマリアはオーストリアへ渡ることさえ拒否していたのです。
懐かしい故郷のはずなのに、昔の記憶が蘇ることが怖いのです。
だからこの年まで一度も故郷へ帰ったことはない。
そんな気持ちをランドルは深く理解するようになります。

けれど事情はわかっていても、オーストリア政府は決してその絵を手放そうとしません。
この絵はいわばフランスにとっての「モナリザ」のようなもの。
あまりにも自国の象徴的なものとなっているために、意地でも手放したくはない。
裁判は長引き、さすがにマリアは、
「もういい。諦めて元の平和な生活に戻りたい・・・」
というのですが、ランドルは絶対に諦めない。
そのように立場が逆転していくのもいいところ。
彼の奥様がまた、普通なら「そんなバカな仕事にはもうかかわらないで」
と言うところですが、夫を励ますんですよ。
泣かせますねえ・・・。

結局ランドルは「絵」を取り戻そうとしたのではない。
過去にナチスとオーストリアの人々に奪われたマリア、そしてユダヤ人の
「人権」を取り戻すための裁判であったように思います。
オーストリアの人々が今でもユダヤ人に差別的というわけではありません。
ちゃんとオーストリアの「良心」的存在として、
彼らの手助けをする青年(ダニエル・ブリュール)が配置されています。
深く心に訴える物語でした。
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ヘレン・ミレン,ライアン・レイノルズ,ダニエル・ブリュール,ケイティ・ホームズ,タチアナ・マズラニー | |
ギャガ |
「黄金のアデーレ 名画の帰還」
2015年/アメリカ・イギリス/109分
監督:サイモン・カーティス
出演:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ、タチアナ・マズラニー
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★